サステナビリティNOW #7ごみからわかること。これからのこと。

左:滝沢秀一氏 マシンガンズ、右:谷垣浩司 野村ホールディングス グループ広報担当執行役員

ごみを捨てる際に「ついうっかり」や「これぐらいはいいだろう」をしていませんか?何気ない行為でも億単位の損害を招いたり、自身が犯罪に遭う可能性を高めてしまうこともあります。ごみからわかること。これからのこと。今回はごみ清掃員でもあるお笑いコンビ、マシンガンズの滝沢秀一さんにお話しをうかがいました。

(写真提供:太田プロダクション)

なぜお笑い芸人がごみ清掃員に?
「滝沢さんは、大学在学中にマシンガンズを結成。一方で2012年にはごみ収集会社に就職し、2020年には環境省の『サステナビリティ広報大使』第1号に就任されています。著書も多く出されていますね。現在はごみ清掃員と芸人と、仕事の割合はどれぐらいですか?」(谷垣)。「今回この仕事もごみがテーマだと考えると、10対ゼロですね」と笑いながら答えた滝沢さん。なぜごみ清掃員の仕事をするようになったのでしょうか?

「お笑いブーム時代にはよくテレビに出ていたのが徐々に減り、貯金がなくなったタイミングで妻が妊娠。36歳の時でした。アルバイトを探したものの35歳の年齢制限があったり、年齢不問の仕事は全部落ちてしまったりで、そんな時に口利きで入れたのがごみ清掃会社だったんです」(滝沢さん)。

芸人を続けるための「手段」だったごみ清掃の仕事。ある日テレビをつけると、M1チャンピオンの同期が、ひな壇の司会者から一番遠い席に座っているのを目にし、「M1チャンピオンがこんなに端なら自分は一体どこに座るんだろう?」と冷静になったのだとか。まずは目の前にある仕事をしっかり頑張ろうと気持ちを切り替えました。「当時清掃員へのクレームが多く、どうしたら言われなくなるかなとか、ごみの分別をしない人にどうやって分別してもらおうかなど、対策を考えるようになりました。問題に気付いて自ら動くようになると、見えるものが変わってきたのです」(滝沢さん)。

(写真提供:太田プロダクション)

お金を出してごみを買っている?

「ごみ」と人間性には関係があるかもしれないと滝沢さんは語ります。

東京都のごみ清掃会社は、家庭ごみとともに中小企業の事業ごみを回収することがあります。滝沢さんの経験から、燃えるごみの中に平気でビンや缶を入れてしまうなど、分別ができない会社は6年以内に潰れてしまうことが多いのだそう。ごみには社名を記載した処理券を貼るため、「分別していないごみを出したらどう思われるだろう?と、その先まで考えが至らないのか…。愛社精神があったら評判も気になりますよね」。

※事業系ごみは事業者自らの責任で処理することが法律で義務付けられています。東京においては区が認める場合、特定の条件において一般ごみとともに回収してもらうことが可能です。

そして家庭ごみにもこんな特徴が。高級住宅地と一般住宅地では、出るごみの種類が全く違うのだそうです。「ごみは基本的に消費したものしか出てきません。消費は趣味嗜好みたいな所がありますが、考え方の一つでもあると思うのです」(滝沢さん)。一般住宅地では、「安いから」と買われたであろう食器、収納かご、子どものおもちゃや洋服などが、「安かったからいいや」とたくさん捨てられると言います。「本人はそんなつもりはないでしょうけど、お金を出してごみを買っているようにも思えます。」一方の高級住宅地では、ごみが驚くほど少なく、そしてきれいに分別されているのだとか。ごみを回収する清掃員の手間や、きちんと分別すればごみは資源になる、といった「先」のことを考えられるかどうかが、普段の生活や仕事にもリンクしてくるのでは、と滝沢さんは考えています。

煩わしい分別も、こんなに簡単に

ごみを分別しようとした時に異なる素材が合わさったもの、例えば金属のリングで綴じてあるタイプのカレンダーやノートはどうすればいいのか迷うところです。この問題を滝沢さんは「お箸を継ぎ目の部分に当てて、割くようにすれば簡単にリングが外れて資源ごみと不燃ごみに分けることができます」と実演してくれました。綺麗にカットしなければ、と思いがちな牛乳パックも「内側のつなぎ目を手でバッと開いてしまえば大丈夫です」とはさみで切るまでの必要はないとのこと。ちなみに6パックでトイレットペーパー1ロールにリサイクルできます。

ごみの捨て方が犯罪を誘発

ごみの捨て方は、身の安全にも関わってきます。みなさんは郵便物やコンビニのレシートを無造作に捨てていませんか?「ある意味、ごみは個人情報の宝庫」と話す滝沢さんは、ごみ清掃員になってすぐにシュレッダーを購入したそうです。

「偶然、元泥棒が書いたという本に出会い、面白そうだからと見てみたんです。泥棒は、放置自転車多いところ、落書きのあるところ、そしてごみ集積所が汚いエリアを探すと書いてありました。」要は、泥棒も捕まりたくないので、人の目の行き届いていない地域の中から一番お金の取れそうな家を選ぶ、ということらしい。そして、「だいたい計算するんですって、この人は何時に帰ってくるか。それが何で分かるかというと、ごみの中にあるレシートを見るそうです」(滝沢さん)。

多くの人にとって、ごみは集積所に出した時点で終わり。その後のことを考える機会は少なく、「これくらい大丈夫だろう」と、つい思ってしまうこともあるかもしれません。ですが、そのごみから泥棒があなたの個人情報を収集しているかもしれないのです。

あと20年でごみが出せなくなる!?ごみを減らすにはどうすれば

つい、捨てられているのはレシートだけではありません。

「1台1000万円するごみ収集車が毎年500台も壊れていると聞きました。どういうことでしょうか?」(谷垣)。「主な原因は可燃ごみと一緒に捨てられるスプレー缶とリチウムイオン電池です」と滝沢さんは教えてくれました。収集車はごみを圧縮し庫内にためていきます。スプレー缶やリチウムイオン電池は引火性が高く、押しつぶされることで火災が発生するケースがあります。「友達の清掃車も燃えました。命にかかわることなので…」と分別ルールの重要性を説きます。
このほかにも、可燃ごみに混ざった不燃物によって焼却炉が故障したり、水分を含んだ生ごみの焼却に多くの火力を必要としたりと、ごみ処理に関連する費用は、なんと年間2兆円を超えるのだとか。

ごみの現状(2021年)

ごみの現状(2021年)

(出所)環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について」

そして、ごみは燃やせば終わりではなく燃やした後には灰がのこります。その灰を運び込む「最終処分場」の容量も、残りあと20年ほどで満杯になってしまうのだそう。

滝沢さんは、ごみを減らすためには私たち消費者だけでなく、「作る側」の意識改革も必要だと言います。そのためのキーワードとして挙げたのが「EPR(Extended Producer Responsibility、拡大生産者責任)」、メーカーには回収まで視野に入れた製品開発をして欲しいと訴えます。

EPRとは

生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適切なリユース・リサイクルや処分に一定の責任(物理的又は財政的責任)を負うという考え方です。そうすることで、生産者に対して、廃棄されにくい、又はリユースやリサイクルがしやすい製品を開発・生産するようにインセンティブを与えようというものです。廃棄物等の量が多く、しかも、それらのリユースやリサイクルがむずかしいことが問題になっている今日、拡大生産者責任はそれらを克服するために重要な考え方の一つとなっています。

(出所)環境省

子どものうちから教育を。楽しみながら。リサイクルカフェ。

ごみの正しい捨て方を教育してもらった経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか。このことの大切さを滝沢さんは強調します。

「ごみに対する意識を変えるのって教育だと思うんです。子どもはごみの捨て方を親から習うことが多いと思いますけど、その親でさえ、おそらく正確に理解しきれてはいないですよね。だから私は幼稚園、保育園の頃からごみの教育をするべきだと思うんです。実際にスウェーデンはそうしています」(滝沢さん)。ごみ処理先進国のスウェーデンは家庭ごみの99%をリサイクルと発電材料として使っています。ごみを有効利用するための分別は約100種類!なぜ分別が必要なのかを子どもの頃から教えているのだそうです。

とはいえごみ問題を「環境に悪いから」と訴えるだけでは、なかなか興味を持ってもらえません。「小さい子ども向けには紙芝居を作りました。今年は『ごみの日』(5月3日)から『ごみゼロの日』(5月30日)まで『ごみフェス』をやります。全国各地でお祭りみたいに、こういう楽しいものがあると知ってもらいたいと思っています」(滝沢さん)。

自らの現在地を「ごみ道の入り口」と言う滝沢さんには、こんなプランも。
「『リペアカフェ』みたいなことをできないかなと思っているんです。壊れたものを集めて修理することを趣味にしている友達がいるので、カフェを作って壊れたものを持ち寄れる場所にしてはどうかな、と。壊れたからと捨てるのではなく、コーヒーを飲むついでに修理に持ってきてもらい、でも直らなかったらごめんね、くらいの感じですけど」。

滝沢さんが心がけているのは、「一方通行」の意識改革ではなく、一緒に楽しみながら学んでもらうこと。皆さんも楽しむ気持ちを持ちながら、普段の生活で何ができるかを考えていくようにしませんか?

滝沢秀一氏
1976年生まれ、東京都出身。大学在学中の1998年に西堀亮さんとお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年にはごみ収集会社に就職し、ごみ清掃員としての日々を綴ったSNSが人気を集めている。2020年に環境省のサステナビリティ広報大使第一号に就任。「このゴミは収集できません」、妻・友紀さんが漫画を描いた「ゴミ清掃員の日常」など著書も多数。

撮影:花井亨

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