金融危機と世界経済の行方

巻頭言2009年新春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

昨年秋以降、米国投資銀行の破綻をきっかけに、世界の金融市場は凍りつき、また実物経済も異例のスピードで悪化の一途を辿ってきた。今次金融危機は、どのように起き、この不況はいつ終わり、不況の終わったあとの世界は、どう変わるのか、一つの考えを述べてみたい。

我々が考える危機の背景は、三つである。第一は、過剰流動性。2004年から2006年にかけて、中国、中東から米国に一極集中的に資金が集まり、金融引き締め下でも長期金利が下がった。この長期金利の低下が米国の住宅バブルを助長し、サブプライム問題も引き起こした。

第二は、金融監督の不十分さ。1999年に、大恐慌を教訓に作られた銀証分離のグラス・ステイーガル法を撤廃し、銀行、証券、保険の垣根が取り払われた後も、金融監督は刷新されず、統合的に監視する仕組みが弱いままであった。また、証券化商品の格付けも十分ではなく、被害を拡大させてしまった。

第三は、米国金融機関の高レバレッジ経営である。2004年以降、過剰流動性に乗る形で、バランスシートを拡大させ、収益の極大化を図り、バブル崩壊の中で、多くが行き詰った。

こうした、世界のマネーの米国一極集中は、米国の資産価格の上昇、家計の貯蓄率の低下を通じ、過剰消費体質を助長した。日本はこの米国の消費拡大の恩恵を直接、間接受け、景気、企業業績を拡大させてきたが、これが急速に修正されている。

その意味で、このプロセスは米国家計の貯蓄率が上がり、バランスシート調整が済むまで続くと見るのが妥当であり、米国の住宅価格の底入れ時期なども勘案すると、米国景気が上向く時期は、2010年の半ば以降になると見られる。したがって、米国経済依存の日本の景気も2008、09年度と2年連続でマイナス成長となり、2010年度からの回復となろう。また、日米ともリハビリが必要で、回復は緩やかなものと想定される。

もちろん、米国経済が90年代の日本経済のような長期停滞に陥る可能性もある。だが今のところ、そこまで悲観視する必要はないと見ている。

第一に、FRBの量的緩和策が評価できる。すでにFRBは金利をゼロ近くまで下げ、自己のバランスシートで各種資産を買い取る量的緩和策に踏み出した。昨年9月に8000億ドルだった資産残高がすでに12月で2兆ドルを越え、いずれ4-5兆ドルに達するものと見られている。長期国債の買い入れにも言及し、長期金利は異例の低下を見せている。資金調達環境の改善、株価、住宅などの資産価格の下支えが期待される。

第二に、米国オバマ政権による大型財政出動があろう。1月20日の就任式と同時に打ち出されようが、GDP比で2-3%の大型の景気刺激策が検討されているようだ。減税、公共投資、住宅借り手保護、環境対策など、多岐にわたろうが、米国消費の下振れを財政拡張で吸収する意図が鮮明である。

一方、中国も積極的な景気刺激策を開始している。金融緩和に続き、2年で4兆元、真水半分として対GDP比年3.5%の財政出動を表明している。マネーが回り始めることが前提だが、金融危機後の世界では、新興国の内需拡大が新たな役割を果たそう。特に、中国、ブラジル、インドの中間所得層の拡大が日本製品の新たな購買層として重要性を増そう。

野村総研によれば、日本製品を好む所得1万ドル以上の世帯数は、2020年には中国で3億6000万世帯、ブラジルで6200万世帯、インドで3600万世帯と予測されている。

その意味で、高い技術水準を維持し、これら1万ドル以上の中間層にとって憧れとなる製品を開発し続けることが大事だろう。目先のデフレ対応型経営と長期成長戦略の複眼が必要ではないか。

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