存在感を増す中国と日本の対応

巻頭言2009年春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

我々は、2009年新春号の中期経済予測2009-2013で、「世界のマネーの米国一極集中と長期金利の低下。それがもたらす住宅価格の上昇と貯蓄率の低下による米国の旺盛な消費需要が世界経済を引っ張る構図」をドル資本主義と名付けた。

そして、現在の世界同時の金融・経済不況の克服には、ドル資本主義の修正が必要であり、それは米国への輸出で恩恵を受けてきた国が内需主導型経済を目指すことで達成される。1985年のプラザ合意以降の日本が担った役割を今回担うのは、新興国、とりわけ、中国であろうと指摘した。

それから3カ月、どうやら、中国経済は期待通りその役割を果たしつつあるように思われる。昨年9月のリーマンショックの後、いち早く、金融緩和と財政支出増に転換した中国の内需拡大策が初期の効果を上げ始めているからである。

最近の経済データを見ると、輸出が減る中でも、製造業の景気動向を示すPMI(中国の購買部協会の景気調査)指数は、企業の在庫調整の進展と財政支出増、消費好調を受け、08年11月の38.8を底に、12月41.2、09年1月45.3、2月49.0と順調に回復してきている。また、銀行の新規融資額は、09年1月に昨年12月の2倍に当たる1.6兆元と急増、前年比も20%近く増え、金融緩和効果が出てきていることを示している。

実際、3月中旬、上海を訪れて、中国政府関係者の話を聞いたが、質的な中味に課題はあるものの、09年後半からの回復に自信を持つことができた。また、日系企業の現地法人も取材してきたが、財投効果で回復し始めた建設機械に次いで、鉄鋼需要も年後半には回復に転じることも確認できた。また、自動車在庫の調整もかなり進み、減税効果もあって1600cc以下の小型車を中心に自動車生産も回復に転じつつあることもはっきりした。

当社の中国担当エコノミストは、こういった点も視野に入れ、2009年の中国の実質GDP成長率を8.0%、10年を8.5%と予想している。先進国経済が軒並み09年(度)2-4%のマイナス成長の中で、減速したとは言え、8%の成長を確保できる中国経済の強さは、際立っている。

歴史的に見るならば、1980年以降30年に及ぶ中国経済の高成長は、中国経済の世界経済での地位を確固たるものにしてきたが、100年に一度とも言われる金融危機にも対応できる実績を見せることで、一段とその存在感を示すことになるだろう。

もちろん、政治の民主化という難題にいずれ直面することを考えると、今世紀中盤には、世界で1、2を争う経済大国になることは確実とまでは言えないが、可能性はあるように思われる。

こういった中国の発展は、産業構造が補完的である日本にとって、当面、脅威というよりチャンスのほうが大きいと考えられるが、長期的にも中国とWIN-WINの関係が構築できるよう強みを磨いておくことが肝要だろう。

具体的には、(1)高い技術水準を維持し、今後中国で急速に増える中間所得層にとって憧れとなる製品を開発し続けること、(2)中国にとって欠かせない原子力、太陽電池、電気自動車などの環境・エネルギー技術での優位を維持すること、(3)金融危機下でも相対的に強い金融システムをもつ利点を生かし、東京金融市場の競争力を高めること、(4)経済だけでなく、人や文化の交流をさまざまなレベルで強めること、(5)安全保障政策、外交体制の強化を図ることなどである。

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