G20時代の始まり-新興国の中流層に舵を切れ

巻頭言2010年新春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

福沢諭吉が、「脱亜論」を書いたのが1885年。それまでの主流であった中国文明から離脱し、西洋文明を全面的に受け入れるべきだとしたことから、「脱亜入欧論」とも呼ばれる。2010年はそれから数えて125年目に当たる。

奇しくも、金融危機後の世界経済は、先進国の成長力鈍化と新興国の存在感の高まりという構造変化を見せている。野村のグローバルエコノミストチームの予測(各国の比重は購買力平価基準)では、2010年の世界経済は4.2%の実質成長を見込むが、このうち、日米欧の先進国が2.0%成長にとどまる一方、新興国は6.6%成長と新興国中心の成長構図になる。金融・為替の世界は、蓄積した資本の厚みで、まだまだ、G7の存在感があるが、経済、産業の世界では、明らかにG20時代を迎えている。G20サミットは定着し、今年はカナダに続き、韓国で聞かれることが決まっている。

G20時代の主役である中国は、09年秋の財界観測巻頭言でも書いたように、4兆元の財政刺激策、適度に緩和的な金融政策、そして、内陸部中心の消費刺激策の3点セットで、内需主導型のV字回復を遂げ、一段とその存在感を高めている。おそらく、今年、遅くとも来年には、中国のGDPは日本を抜き、その後も高い成長を維持し、2020年には1100-1200兆円に達し、日本の2倍近い経済規模になろう。

もちろん、新興国は中国だけではない。インドは中国よりも発展段階は低いが、莫大な人口と優れたIT技術を有し、成長力は高い。加えて、タイ、インドネシアなどのASEAN諸国も、日本からの資本、技術を活用し、高い成長力を見せている。また、アジア以外では、ブラジルがかつてIMFの管理下にあった時期とは様変わりし、近年はインフレも落ち着き、力強し、経済発展の道を歩んでいる。さらに、金融危機の悪影響から足下停滞感が強いロシアだが、莫大な天然資源、優れたIT・宇宙技術など潜在的な魅力は大きい。

野村総合研究所のコンサルティングチームの分析によると、今後、これらの新興国では中間所得層が急速に増加してくる見通しだ。すなわち、2020年の所得1万ドル以上の世帯数は、中国で3億5900万世帯(2008年6300万世帯)、ブラジルで6200万世帯(同3400万世帯)、インドで3600万世帯(同700万世帯)、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム合計で、6200万世帯(同1400万世帯)と予測されている。

それでは、新興国市場攻略のキーワードはなにか。以下の3つがあげられる。

(1)新興国の所得1万ドル世帯の人々が持つ日本製品への憧れを生かす。アンケートを採ると、世帯の所得水準が1万ドルを超えると、新興国の人々に、日本製品への憧れが見られる。この点に訴求することが大事だ。いたずらに、低価格で勝負しても消耗戦を強いられるだけだ。

(2)現地のニーズに即した製品開発、マーケティング面での差別化・工夫を図る。当然のことながら、日本製品・サービスをそのまま持ち込んでも成功しない。たとえば、北京のセブン・イレブンには、屋台がある。これは、中国の人々は冷えたおにぎりをあまり食べないため、屋台で調理して売るということのようだ。

(3)コストを下げるためにも、開発、生産、販売などの現地化を進める。中間所得層が増えるとはいっても、先進国の所得水準よりはまだかなり低いので、現地化を進めることが不可欠だ。販売、生産は分かるが、開発は国内でという意見も強いだろう。もちろん、技術開発は日本、製品開発は現地というのが基本になるだろう。

日本企業が成長を維持するためには、成熟する日本市場依存から脱し、急速に台頭する新興国の中流層に舵を切る時だと思う。

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