07年度の最高利益に挑む産業界

巻頭言2010年夏号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

昨年春、リーマンショック後の世界不況の只中にあって、日本企業の収益回復は遅れ、2007年度の最高利益に戻るのは、2013年度以降と相当の時間がかかるだろうと覚悟していた。別の言葉で言えば、L字回復にならざるをえず、今回の不況は全治5年以上と見ていた。

しかし、2009年度の企業決算が発表され、2010年度以降のアナリスト予想が示される中で、その認識は大きく修正されることになった。すなわち、NOMURA400の連結経常利益は、2010年度には25.4兆円とピークであった2007年度の34.7兆円の73%レベルに回復し、2012年度には34.3兆円と2007年度レベルへの回復が見通されたのである。すなわち、欧州|の財政不安や米国のディスインフレ懸念などがあり、V字回復とは行かないものの、U字回復以上の軌道が見えてきたと言える。

それでは、どういった業種が2007年度の最高利益への回復をリードしていくのか。まず、一時大きく落ち込みを見せた製造業は、2012年度には2007年度を100として、93まで回復する見通しだが、産業用エレクトロニクス、環境装置・プラント、化粧品・トイレタリー、ガラス、電子部品、半導体製造装置、ロボット・空圧機器などが全体を押し上げるものと予想されている。そして、建設機械もいずれこの中に加わってくると見ている。アジアのインフラ投資増、アジアの消費市場の拡大、アジアの電子機器・EMS向けのコア部品や製造装置の販売増、中国の人件費上昇に伴う自動化投資増、などが背景にある。

一方、非製造業は落ち込みが軽かったことから、2012年度には107まで上昇する見通しだが、通信・インターネット、小売専門店、個人向けサービス、商社、電力・ガスなどが貢献度の高い業種となる。2007年度の収益水準が地震による原子力発電所の停止に伴うコスト増等で低かった電力・ガスを除くと、国内・アジアのインターネット市場の成長、アジアの消費市場の拡大、国内のヘルスケア・介護市場の成長、アジアでの資源・エネルギー需要の拡大などが背景にあると考えられる。

結局、製造業はもとより、非製造業も国内のインターネット、シニア市場など数少ない成長市場を別にすれば、アジアの消費市場の拡大やアジアの資源・エネルギー、インフラ投資増の恩恵を享受するなど、アジア市場を押さえるものが成長企業の条件となる構図が見えてきている。かつて米国市場を制するものが、世界を制すると言われたが、今後はIT、金融など米国が最大市場であり続けるものもあろうが、鉄鋼、自動車、家電、建設機械など、中国が最大市場になる中で、アジアを制するものが世界を制する時代になるのであろう。

もちろん、アジア市場に参加すれば、それだけで好位置を占められるというものではない。中国、韓国はもとより、欧米企業との競争は続き、ビジネスモデル上の強みがないと、持続的に利益を生み出す力は出てこない。それはなにか。我々がアジア市場で活躍する企業を資本財分野で調査した中で言えば、川上のコア部品と川下のサービス力に強みを持つ企業が勝ち組の条件ということである。川中の組立は中国企業からも有力な企業が出てくる段階に来ている。自社の強みをどのように磨き、勝ち組に入るか、ビジネスモデルの競争もますます重要になっていくだろう。

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