二番底回避に向け政策動く、成長戦略も重要

巻頭言2010年秋号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

今年の流行語の一つは、FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長が7月21日の上院銀行委員会で発言した米国景気の先行きに関する「異例なほど不確か」(unusually uncertain)ではないかと思う。その発言を契機にして、FRBによる超低金利政策の長期化観測が支配的になり、米国債利回りの低下とドル安、円高に拍車がかかったからである。

確かに、今回の米国景気回復の弱々しさは、かつての景気回復局面との比較において際立っている。1950年以降の米国景気循環の特色は、「谷深ければ、山高し」で、景気が大きく落ち込むとそのあとの回復は相応に強いという傾向があった。たとえば、第二次石油危機後の1981-82年の景気の落ち込みは実質GDPの下落幅で3%近くに達したが、その後2年間で年5%のペースで回復を見せた。今回は実質GDPの下落幅で4%近い落ち込みとなり、かつての経験則に従えば、年6%程度での回復となるはずだが、年2%台の成長しか見込めない情勢にある。

なぜか。それは、住宅価格の低下による家計貯蓄率の急上昇(現在なんと日本よりはるかに高い6%)が消費拡大を強く抑制しているからである。米国家計は戦後初めてバランスシート不況に遭遇し、消費を節約するという防衛的な消費行動を採っているのである。

このため、FRBは超低金利政策を継続し、金利面から家計をサポートすると伴に、量的緩和政策の強化で資産価格、ここでは住宅価格というより株価に影響を与え、株高効果(15%の株価上昇でGDPを0.4%押し上げる)を通じ、二番底を回避しようと意図しているように見える。

問題は、FRBのバランスシートが拡大し、その過程でドル安圧力が高まることである。したがって、日本もこれに対抗せざるを得ず、財務省による円売り、ドル買い介入と日本銀行による量的緩和策を通じ、日本経済を行き過ぎた円高から守り、同時に、日本株にも好影響を与えることが望まれる。

もちろん、金融・為替政策だけではなく、財政政策も二番底回避に向け、積極対応することが肝要であろう。その意味で、米国において、2010年末で期限を迎えるブッシュ減税のフル延長(万一失効すると1600億ドル、GDP比1%以上の増税効果をもたらす)が大事になるし、日本においては、(国債を増発せずにできる)3-5兆円程度の2010年度補正予算の編成が必要だろう。

そうすれば、中国、インド、ブラジルなどの新興国経済の成長もあり、また、南欧の財政赤字問題に揺れる欧州経済でも中核のドイツ経済はユーロ安効果で堅調を維持していることから、世界経済が二番底に陥るリスクは、回避されよう。

その上で、日本としては、デフレ脱却にもつながる成長戦略の実現に向け、政府・日銀、民間企業あげて行動していくことが求められる。すなわち、(1)新興国の中間所得層の消費需要ならびにインフラ投資需要の取り込み、(2)グリーンイノベーションなど、技術革新による新産業の育成、(3)法人税引下げによる企業の海外移転の抑制、外資の呼び込み、(4)高齢化に伴って新たな需要が期待されるシルバー市場の開拓、(5)観光、農業を活用した地域活性化などである。

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