東北地方太平洋沖地震と日本経済の行方

巻頭言2011年春号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

2011年3月11日、M9.0の巨大地震が東北地方太平洋沖で発生した。同時に10メートルを超える大津波が岩手県、宮城県、福島県中心に東日本の海岸に押し寄せ、多数の津波被害者を生み出した。加えて、大津波は東京電力福島第一原子力発電所の冷却システムを破壊し、そこから深刻な原発事故を引き起こした。M9.0、大津波、原発事故というのは、おそらく人類史上初めてのことで、日本がこの大災害からどう復興するか、何を教訓として残すのか、世界が注目している。本稿では、この地震により被災されたみなさまにお見舞いを申し上げるとともに、日本経済への影響、震災復興に向けての課題、原発事故の教訓などについて、述べてみたい。

第一に、日本経済への影響については、3月17日に経済調査部が経済見通しの改定を行い、2011年度の実質GDP成長率見通しを+1.5%から+1.1%へと0.4%ポイント下方修正している。地震の影響は生産停止と消費手控えの両面からGDPを押し下げる。特に、11年1-3月、4-6月のGDPを押し下げるとみられるが、11年10-12月からは復興のための公共投資増がGDP押し上げに働くものと想定される。そのため、上記程度の下方修正にとどまるとの見通しだ。なお、震災復興のための11年度内の財政出動規模は6兆円を前提にしている。

一方、地震の被害額の推計は現時点では大変難しいが、大きな被害を出した岩手県、宮城県、福島県の資本ストックの合計85.8兆円に阪神・淡路大震災時と同じ資本ストック毀損率(14.7%)を掛け、12.7兆円と暫定推計した。これは阪神・淡路大震災の被害額9.9兆円の1.3倍に達し、極めて大きな人的被害と合わせ、今回の地震の被害の大きさを物語っている。

なお、GDP見通しの下方修正が予想外に小さいとの見方があろうが、地震の被害は資本ストックを棄損するが、フローの統計であるGDP統計からその分を差し引くわけではない。この点の説明が必要なのかなと思う。ちなみに、阪神・淡路大震災の起きた1995年の実質GDP成長率は+1.9%と2%に近いものであった。

第二に、震災復興に向けての課題であるが、道路、鉄道、電気・ガス、上下水道などのライフラインの復旧や仮設住宅などの建設に大型補正予算を早急に組むべきかと思うが、もう一方で重要なのは、長期的な都市再建の基本構想をしっかり打ち出すことだろう。その際検討すべきは、都市化率の引き上げと防災対策の強化だろう。

もちろん、個人の選択の問題ではあるが、地方の中核都市に高層住宅、病院、学校などの社会インフラとともに、医療・介護施設やコールセンターなどの雇用の受け皿を整え、そこに多くの方に住んでもらう、コンパクトシティ構想が検討されて良いと考える。と同時に、津波対策を含め、防災対策をしっかり行うことだろう。

関東大震災の時には、帝都復興院を設立し、大胆な都市再生計画を打ち出した。今回の震災でも政治はその本来の役割を果たさなければならない。

第三に、原発事故をどう総括し、今後に生かしていくか。この課題も極めて大きい。今回の福島第一原子力発電所の事故は、大津波で非常用ディーゼル発電機を含め冷却システムが破壊され、原子炉は制御棒が入り自動停止したが、その後の冷却過程がうまく働かず、原子炉の冷却に時間がかかっている間に、建屋の破損、使用済み核燃料プールの露出などの問題が次々に起こった。

まだ、本稿執筆時点(3月24日)では、外部電源との接続はできたが、福島第一原発1-3号機の原子炉の冷却問題は解決されておらず、その先を議論するのはやや性急かもしれないが、すでに米国で1979年に起きたスリーマイル島の原発事故よりも深刻な段階に達しているように見える。もちろん、運転中に原子炉が爆発し、大きな被害を出したチェルノブイリ原発の問題とは違うが、原因の究明、初動対応、津波対策を含む安全対策、原子力安全・保安院のあり方など、さまざまな問題を議論する必要がある。

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