復興期のマクロ政策運営

巻頭言2011年夏号

野村證券金融経済研究所 経営役・チーフリサーチオフィサー 海津 政信

3月11日の東日本大震災から、4か月近い日時が経過した。改めて、大震災で被災されたみなさまに心からのお見舞いを申し上げ、今号では、復興期のマクロ政策運営について考えてみることにしたい。

復興構想会議の提言等を元に、政府は秋に本格的な復興予算を編成すると表明している。予算規模は、がれきの撤去や仮設住宅の建設などを主眼にした第一次補正予算の4兆円よりも大きくなり、その際、財源をどう調達するか、極めて重要な課題となってこよう。具体的には、内閣府は震災に伴う被害額を16‒25兆円と推定している。仮に中間の20兆円と見て、4兆円の第一次補正予算を差し引くと、あと16兆円程度の財源が必要になってくる。さて、これをどう捻出するか。

復興事業に割り当てるのだから、増税しても景気に影響しないという意見があるが、私は日本経済が依然デフレ下にあり、かつ、リーマンショックの傷が十分癒えない段階でこの大震災が起きたことを考えると、景気への配慮が優先すると考えている。その意味で、2012年4月からの大型の消費税増税で復興財源を賄うことには反対である。むしろ、復興事業を行うことで有効需要を作り出し、デフレからの脱却に結びつけるのであれば、復興国債を発行し、それにより需要を作り出すことに意味があると考える。

もちろん、国債発行は将来世代への負担の先送りという側面をもっている。また、ギリシャ危機にみられるように、財政赤字問題への配慮も欠かせない。その意味では、復興国債の償還財源をあらかじめ決めておくのが良いだろう。その際、10年で償還というと先送りのイメージが強いので、デフレからの脱却を待って4年から7年ぐらいの時間で実行に移すのが良いと考えられる。

おそらく、復興事業で有効需要を作り、需給ギャップが縮小し、デフレから脱却できるのが2013年度とすると、2014年度から4年間ぐらいかけて毎年4兆円ずつ償還していくのが良いのではないか。これを消費税1%で2.5兆円、中高所得者中心に所得税の臨時増税で1兆円、固定資産税・都市計画税の臨時増税(国税)で0.5兆円というのが、景気を傷つけないで行える財源案だろう。

ちなみに、所得税は年間13兆円あるので、1兆円の臨時増税は8%、固定資産税・都市計画税は地方財政計画で年間8.9兆円が見積もられており、国税分として0.5兆円というのは、概ね5%相当であり、臨時増税であれば、ぎりぎり容認されるのではないか。

法人税は国の競争力を維持するために諸外国に合わせて下げていくべきなので、臨時増税といえども増税は見送るべきだろう。株式市場、債券市場がともに納得できる案は、それほど多くはなく、このあたりが落とし所のように思われる。

それでは、金融政策はどうするか。株式市場関係者の中には、復興国債を日本銀行が直接引き受けると、インフレ期待が出てかえって良いという意見もあるが、財政支出増に歯止めが効かなくなり、長期金利の上昇につながるリスクが高い。それは避けるべきだろう。ただ、より緩和的な政策を取り、東北復興を金融政策面から支援すべきだろう。

具体的には、長期国債の買い切り枠、リスク資産の買い取り額を増やす量的緩和政策の強化が望まれる。たとえば、現在月間1.8兆円、年間21.6兆円の長期国債買い切り枠を月間数千億円増額する、また、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)のリスク資産の買い取り額を現在の1兆円からさらに0.5‒1兆円程度増やすなどが考えられる。

日本銀行は日本銀行のバランスシートはFRBのバランスシートよりも対GDP比で大きいと良く反論するが、FRBの2回にわたる量的緩和政策により、その差は縮小してきている。日本銀行にはより量的緩和政策に前向きな対応を望みたい。

手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。