ユーロ危機と世界並びに日本経済

巻頭言2012年新春号

野村證券金融経済研究所 シニアリサーチフェロー兼アドバイザー 海津 政信

世界経済は今世紀に入り、3回目の減速・不況局面を迎えている。一回目は01年のITバブル崩壊後の不況で、実質GDP成長率は2%台前半まで減速した。二回目はリーマンショック後の09年不況で、実質GDPはマイナス成長となり大恐慌以来最悪の景気後退となった。そして、今回が三回目で、ユーロ危機からユーロ圏が不況入りし、12年の実質GDP成長率は3.2%まで減速すると予想している。

まず、ユーロ圏経済は12年に1.0%のマイナス成長を見込んでいる。ユーロ危機の悪影響が緊縮財政と金融収縮、心理悪化を通じ、南欧諸国だけでなく、ドイツ等の主要国にも及んでいくと見ていることによる。もちろん、ユーロ崩壊は見込んでおらず、一定の財政健全化を各国政府が約束し、それを前提にECB(欧州中央銀行)が各国の国債を買い入れる量的緩和(QE)政策に乗り出すと予想している。

時期は12年1-3月中を見込み、これを機に、ユーロ安と株式市場の反転・上昇が起き、12年末以降の景気回復につながると想定している。もちろん、十分な措置を講じることができなければ、ユーロ崩壊のリスクもあり、その場合はユーロ圏経済の落ち込みは際立ち、世界も深刻な不況に陥るものと見られる。

ついで、米国経済は2.3%の成長を予想している。ユーロ崩壊の危機シナリオでなければ、この程度は見込めそうだ。というのは、ユーロ圏を含む欧州|への輸出は米国GDPの3%弱に過ぎず、輸出減を通じた直接的な影響は0.2%未満と試算されるからだ。また、ユーロ危機の影響で株式市場のリスクプレミアムが上昇し、10%ほど株価の上昇を抑制する可能性があり、これは0.2-0.3%ほど米国の成長率を押し下げる。それでも合わせて0.5%未満であり、直感的に思うほどの悪影響ではない。ただし、2.3%の予想には、11年末で打ち切りになる給与税減税と緊急失業保証プログラムの延長が織込まれている。万一、民主、共和両党での交渉が決裂し、打ち切りとなると0.8%ほど成長率を押し下げる。この点には留意をいただきたい。いずれにせよ、FRB(米連邦準備理事会)による量的緩和策の強化が視野に入ろう。

それでは、中国経済はどうか。中国のGDPに占める輸出依存度は29.3%と高く、ユーロ圏は中国の最も重要な輸出先であるだけに、輸出を通じた減速要因は小さくない。ただ、一時懸念されたCPI上昇率は、11年11月で前年比4.2%まで低下、中国政府は物価重視より景気重視に政策転換を図りつつある。預金準備率は11年11月の21.5%から12年前半を通じ19.0%まで引下げられると見ている。また、財政政策も鉄道網の建設再開、地方での住宅建設拡大など、拡調気味に運営されよう。このため、中国の実質GDP成長率は、年後半には持ち直し、7.9%と予想されている。

最後に、日本経済の見通し。日本の実質成長率の予想は、暦年ベースで1.9%、年度ベースで1.7%である。世界景気の減速は、輸出を通じ日本経済にマイナスの影響を与え、外需のGDP押し上げ効果は暦年でマイナス0.2%、年度でゼロと見込むが、公共投資、住宅投資中心に震災復興需要が下支えになる。おそらく、13年も震災復興需要が支える形で、堅調を維持しよう。むしろ、経済が堅調な聞に、TPP、成長戦略、消費税増税問題など、構造改革に力を入れるべきだろう。

まず、TPPは、電機、自動車などの主力輸出品で競合関係にある韓国に比べ、貿易自由化への対応で遅れる日本にとって、遅れを取り戻すチャンスである。また、高齢化する農業の改革を進める好機でもある。成長戦略では、新興国のインフラ投資を獲得するための官民一体の取り組み、中間所得層の消費需要の取り込みが重要だ。また、法人税引下げによる対内投資拡大、高度専門能力を持つ外国人の受入れ拡大、観光戦略の推進、金融・資本市場の強化など、内需の底上げも積極的に図りたい。消費税増税も必要だ。そのためには、公務員給与の引き下げに手をつけ、成長戦略と合わせて推進すべきだ。経済成長による税収増との合わせ技でないと、財政再建はできないからだ。

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