消費税の次は成長戦略、TPP、エネルギー政策が重要課題

巻頭言2012年夏号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザー 海津 政信

本稿の執筆時点では、消費増税関連法案が民主、自民、公明3党の政策協議を経て衆議院を通過する公算が大である。参議院での審議も残っているが、3党の合計議席は参議院の議席総数242議席の85%を占めており、民主党の一部が反対、棄権に回っても、延長国会末までに成立することはほぼ確実である。

消費税引き上げを巡っては、デフレからの脱却や議員定数の削減、公務員人件費の引下げが先決という意見が根強く存在するが、1年前以前はそうした議論も成り立ちえたが、欧州|の政府債務危機がここまで深刻になると、それを待って動くのでは遅いと思われる。同時的に動き、条件を整備しつつ、2015年までに2段階で税率を10%まで引き上げ、社会保障の安定財源を確保し、かっ日本売りを避けるため財政の健全化を図ることが肝要だ。

具体的には、20.9兆円の震災復興予算を活用し、需給ギャップを縮小させ、かつ日本銀行の量的緩和策の強化を挺に1ドル=90円程度の円安を実現し、2014年度までに消費者物価上昇率を目標の1%まで引き上げ、デフレからの脱却を達成しなければならない。また、議員定数の削減も民主党案は小選挙区5議席減、比例40議席減で現在の480議席から米国下院並みの435議席に減らすとしているが、今国会で結論を出し、消費増税と並行して、国会議員も身を削るという姿にしていただきたい。公務員の人件費削減は復興予算の財源の一部に充当するため、2年間にわたり国家公務員の給与を8%削減することが決まっているが、さらに踏み込むべく、努力してもらいたい。

さて、こうして消費増税関連法案が成立する運びとなり、日本の政治もようやく決めるべきことを決められるようになってきた。その意味で、今回の政策合意は高く評価されて良いだろう。重要なことは、この政治の流れを定着させ、日本が抱える課題をスピード感を持って解決していくことだろう。

社会保障と税の一体改革の次に重要な課題の第一は、成長戦略の遂行である。財政の健全化に消費税の引き上げは不可欠であるが、経済を成長させ、名目GDP成長率を年率2%以上に引き上げ、税収増を図らないと財政再建はできない。研究開発投資の拡充、大学・大学院の国際化、日本人のグローバル化、環境・省エネ技術による新分野開拓、航空・宇宙産業の育成、IT・通信、医療・介護などの成長促進に加え、金融支援も交えたアジア地域の電力、鉄道、水などのインフラ投資需要の取り込み、海外からの観光客増による地域活性化など、総合的に推進する必要がある。

第二は、成長戦略と密接に結び付くが、TPP(Trans-Pacific Partnership)交渉への正式参加である。アジア太平洋地域の成長力を取り込み、日本の成長に結び付けていくのに必要であるし、農業分野の競争力強化にも大きなきっかけを提供しよう。9月にロシアのウラジオストクで聞かれるAPEC首脳会議で参加を表明するのも考え方だろう。

第三は、原子力発電の比率を長期的にどうするかといったエネルギー政策の再構築であろう。地震国での原子力発電のリスクの大きさを認識させたのが、東日本大震災がもたらした福島第一原発の未曾有の事故であった。もはや、国民の多くの声は原子力発電の新増設は認められず、40年を過ぎた古い原子力発電所は廃炉にしていくということだろう。もちろん、大震災前に日本の電力供給の30%を担っていた原子力発電をすぐに止めてしまう訳にはいかず、その意味で、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働は必要なものであった。国民的な議論を行い、エネルギー政策を再構築することが欠かせない。

手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。