より強い日本の成長戦略を期待

巻頭言2013年秋号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザー 海津 政信

10月を迎え、アベノミクスは3本目の矢である成長戦略の実行に向かう。すでに、6月14日に日本再興戦略ジャパン・イズ・バックと名付けた「成長戦略」を閣議決定している。網羅的かつ工程表付きと従来の成長戦略より進んでいるが、踏み込み不足な点も少なくない。以下は、成長戦略をより強くするための提案である。

まず、大きな一つ目、日本産業再興プランでは、第一に、成長重視に向けた企業統治の強化が重要だろう。具体的には、上場企業に対し、独立した社外取締役の受入れを(実質)義務化すべきだ。不採算部門のカットを社長に求める、M&A(合併・買収)を含め企業の成長戦略に関わるなど社外取締役の役割は大きい。また、株主、投資家が求めるROE(自己資本利益率)8%の達成、連結ベースで60兆円を越える手許流動性の活用など、喫緊の課題も多い。

第二に、雇用制度の改革、人材力の強化が必要だ。行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換が福われているが、デンマークのやり方が参考になろう。デンマークは北欧の国で意外に感じられようが、従業員の解雇は難しくない。その代わり、失業補償は手厚く職業訓練もしっかり行うことで、成熟産業から成長産業への雇用の移転が比較的スムーズにできる。産業の新陳代謝を良くする意味で学ぶ価値はある。

また、当然ながら女性の雇用拡大も大事だ。政府は2年で20万人、5年で40万人の保育の受け皿をつくり、待機児童解消を目指すとしている。ぜひ実現させ、女性が活躍できる社会にしないといけない。

第三に、イノベーションは広くとらえた方が良いだろう。日本企業の技術開発力は高い。むしろ技術を活用して儲かるビジネスモデルをつくることが課題で、この点の工夫、支援が大事だ。日立製作所は中西社長の下でビジネスモデルの変革に取り組んでいる。(1)社会インフラ事業を軸にもの作り十サービスで稼ぐ一方、(2)中韓との競争が激しい電子機器の組立事業からは撤退する。この選択と集中は参考になろう。

次いで、大きな二つ目、戦略市場創造プランでは、第一に、健康寿命の延伸がある。日本版NIH(国立衛生研究所)の創設やiPS細胞を活用した創薬、再生医療研究の推進等評価できる点があるが、混合診療の解禁ないし適応拡大が盛り込まれていない。秋の第二弾ではぜひ盛り込んでほしいと思う。

第二に、クリーンで経済的なエネルギーでは、ガスタービン火力発電の高効率化や洋上風力など再生可能エネルギーの活用に加え、次世代自動車の普及促進があろう。ハイブリッド車、燃料電池車は環境意識の高い日本や欧州、米カリフォルニアなどに向いている。一方、新興国では価格・コスト意識が高い。ガソリンエンジンの燃費効率の引き上げが依然有効だ。要は市場ニーズに即応することである。

第三に、次世代インフラはどうか。自動車でいうと衝突防止装置や自動運転システム。電力プラントで、はCO2(二酸化炭素)の固定化技術を使った石炭火力の活用などが有効だ。高速鉄道ではリニア新幹線があろう。

第四に、観光事業の拡大には、ビザ発給条件の撤廃・緩和、成田、羽田の両空港の発着枠拡大、都心直結線の整備等が必要だが、2020年東京五輪招致成功により、多くの課題が前進しよう。

最後に、大きな三つ目、国際展開戦略だが、第一に、TPP(環太平洋経済連携協定)等経済連携の推進、第二に、インフラ輸出拡大へ首相・閣僚によるトップセールスの実行、おもてなし精神を含むクールジャパンの推進等が福われている。安倍首相のリーダーシップの下、対応が進んでいるのは心強い。

その一方、第三の対内直接投資の活性化やグローバル人材の強化といった課題克服には、高い法人実効税率の引下げ、国家戦略特区の有効活用等が不可欠だ。幸い、議論はその方向に進み始めている。安倍政権の成長戦略がより強いものになることを期待したい。

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