消費税再増税は追加政策対応とセットで行うべき

巻頭言2014年秋号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

安倍首相は今年12月までに来年15年10月に予定される2回目の消費税引上げの可否を決めなければならない。そうした中、各種世論調査で反対意見が多いことに加え、経済学者、実務畑のエコノミストの間でも消極論が増えている。というのは、耐久消費財、住宅の駆け込み需要の反動減が想定以上に大きく、14年4~6月期の実質GDPが前期比年率7.1%も減少し、かつ7~9月期も天候不順の悪影響があり、L字回復に留まると見られるからだ。ちなみに、当社経済調査部は前期比年率3.6%増と従来比慎重な予想をしている。

こうした点から消費税再増税先送りは理解できないことではない。だが、(1)アベノミクスへの経済界、市場関係者の信頼を失いかねない、(2)子育て支援などの新規施策や法人減税の財源確保に必要性が高い、(3)法律の出し直しで3~4か月の貴重な時間をロスする、(4)政治的に野党に反転攻勢の機会を提供しかねないーなどから、追加政策対応とセットで予定通り行うのが上策と思われる。それでは、追加政策対応としてどんなものがあるか。以下あげてみたい。

まず第1は、日本銀行に依るQQE2、量的・質的金融緩和の第2弾である。米国もQE3(量的緩和第3弾)までやって資産価格を上げ、今日の強い景気回復を手に入れた。10月31日の政策決定会合で、日本銀行は14年度の実質GDP予想を7月見通しの+1%から+0.5~0.7%まで引き下げるものと見られる。潜在成長率並みの実質成長率予想まで下げることになり、物価目標2%を維持するためには追加緩和の必要性が増そう。

第2は、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)の資産構成比変更は遅くとも10月上旬までに公表すべきことだ。すでに、海外投資家は米金融政策に対するハト派バイアスの修正とGPIFのリスク資産投資拡大を見込み、8月下旬以降円安、日本株買いのポジションを膨らませてきている。ガバナンス改革は重要だが、それを優先させ、GPIFの資産構成比変更が遅れる事は避けなければならない。

第3は、14年度補正予算の編成を急ぐことだろう。財務省は14年度の法人税見積もりを10兆円と想定しているが、上場企業の収益見通しは好調で、1~2兆円は上振れることが期待される。これに13年度の剰余金1.4兆円や利払い費の節約など合わせて3~4兆円を使い、国債増発なしで補正予算が組めるだろう。

内容面では、今夏の異常気象による災害復旧、東日本大震災の被災地復興、女性の活躍促進、子育て支援・少子化対策などに加え、ガソリン税の減税を行うのが効果的ではないか。特に、足下、円安、株高になっており、輸出産業や都市の富裕層にはプラスだが、地方の農業者、漁業者にはガソリン高が家計を圧迫しよう。ガソリン税をリッター10円下げると心理の好転も含め効果的だろう。必要な財源は年ベースで5,000億円程度と見られる。政治サイドにもこうした意見があると聞く。実現できればと思う。

第4は、日中関係の改善を図ることだろう。11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)での日中首脳会談の実現をテコに、積極的に環境技術の供与を申し出るべきだ。短期的にも効果があるのは、ハイブリッド車への助成獲得。PM2.5の改善に効果のある低燃費車の代表であるハイブリッド車が中国市場で伸びると、中国向け輸出が増加、国内生産増にも繋がろう。また関係改善で中国からの観光客が一段と増加し、地方経済にプラスとなろう。

第5は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉の妥結を急ぐことだ。11月初めの中間選挙後には、米国の政治的ハードルは下がるだろう。今年4月の日米首脳会談以後、こう着状態にあるTPP交渉を妥結させると成長戦略のさらなる前進に資する。

アベノミクスの成功に向け、さまざまに知恵を絞り、対処する局面だ。

手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。