アベノミクスIIは賃金上昇と成長戦略強化が軸

巻頭言2015年新春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

2014年12月14日は、日本経済のデフレからの脱却、経済再生を前へ進めた日として記憶されることになろう。安倍首相が、消費再増税延期とアベノミクスの是非を問うた衆議院選挙で、自民党291議席、公明党35議席、与党合わせて326議席を獲得し、圧勝したからである。

選挙に勝利した安倍首相は、国民から負託された政治資産を使い、アベノミクスIIを推進することになるが、軸は次の二つだろう。

まず、第一は、政労使会合の場等を使い、経済回復と円安により大きく向上した企業の稼ぐ力を持続的な賃金上昇につなげることであろう。結局、多くのエコノミストが株高に伴う資産効果や財政出動効果でカバーできると考えた消費税引上げに伴う実質賃金の低下は、消費に大きな悪影響を与えたからである。

やむを得ない選択だったが、15年10月に予定されていた二回目の消費税引上げは18か月延期され、17年4月となった。これにより、消費税2%引上げに伴う消費者物価1.4%上昇は先送りされ、15年、16年春闘で名目賃金を2%超ずつ上げて行けば、実質賃金は2年間に亘り増加しよう。

名目、実質賃金が持続的に増加するのは、98年に日本経済がデフレに入って以降初めてのこととなる。これにより、消費増税後冷え込んだ消費需要が回復、設備投資の回復と合わせ、経済の体質はかなり良くなると期待される。異例とは言え、企業経営者は賃金引上げをマクロ経済的視点も持って実行する必要がある。

第二は、成長戦略の強化、第三の矢をしっかりさせることだろう。安倍政権が打ち出した成長戦略のうち、成果が上がっているものはもちろんある。たとえば、訪日外国人の増加。14年は1300万人の外国人が日本を訪れ、6000億円を越える消費を行った模様であり、20年には消費額は1兆円超に達するものと予想されている。

円安、ビザ発給の緩和、格安航空の普及が成長の原動力になっている。また、法人実効税率の引下げも、14年6月の成長戦略に盛り込まれ、今後数年かけて、ドイツ並みの29%程度まで引き下げられよう。円高是正、燃料電池車やビッグデータ活用等のイノベーションの進展と合わさり、日本の立地競争力を高めることになろう。結果、日本企業の国内設備投資増加とともに、海外企業の対日投資拡大に繋がり、成長に寄与しよう。

そのほか、インフラ輸出拡大、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革、コーポレートガバナンス改革なども成果が出ている分野である。

その一方、まだ十分成果が上がっていない分野もある。米中間選挙後に先送りされたTPP(環太平洋経済連携協定)交渉や雇用改革、農業改革、医療改革等の岩盤規制の改革である。今回の衆議院選挙で国民から負託された政治資産を活用し、目に見える形で進展させる必要がある。

こうして成長戦略が進んだ場合、日本経済は16-20年で実質年1.6%、名目年2.6%の成長が予想され、税収増から財政健全化も進む見通しになっている。詳しくは、後述の日本経済中期見通しのアップサイド・シナリオを確認いただきたい。

もちろん、既得権者の強い抵抗で、今回の総選挙で獲得した政治資産を使っても、岩盤規制の改革は難しいという指摘もある。ぜひ、改革を進めてほしいと思う。

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