改善する日本の立地競争力と電気産業復活への期待

巻頭言2015年春号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

アベノミクスの進展で、日本の立地競争力が改善してきた。第一に、日本銀行の量的緩和政策により為替レートが1ドル=80円から1ドル=120円まで大幅な円安となった。80円と120円では、自動車、電機等の輸出産業にとって天と地ほどの大きな差がある。第二に、法人実効税率が14年暮れの税制改革で16年度には31.33%以下(13年度で37%、14年度でも34.62%)になることが確定し、早ければ17年度にもドイツ並みの29%台まで下がる見通しとなってきた。

その結果、日本からの輸出が増加し始め、日本の製造業の設備投資に国内回帰の動きが出てきている。具体的には、15年1-2月平均の実質輸出は季節調整済みの数字で、アベノミクスが始まる直前の12年7-9月期の平均を100として、107まで増加してきている。海外旅行者が日本で消費するサービスや物品の購入も定義上は輸出で、これを加えるとさらに増加率は高くなろう。

一方、財務省法人企業統計ベースの日本の製造業の国内設備投資は14年10-12月で前年同期比8.0%増、他方、経済産業省調べの製造業の海外設備投資比率は最も高かった13年4-6月の32.9%から14年7-9月には27.2%に低下してきている。製造業設備投資の国内回帰の証左と言えよう。

さて、こうした中、円高でかなり大きな打撃を受けた電気機器輸出の復調が目立ってきている。14年10-12月の産業別の実質輸出を14年1-9月と比較してみると、電気機器が9.2%増と輸出総額の4.4%増を大きく上回っている。

これは、アップル等のスマートホン向けの電子部品輸出が増加したことが大きいようだが、その他製品も含め競争力の回復が進んでいるためだと考えられる。円高時に破たんし、その後米系企業の傘下に入ったDRAM専業の旧エルピーダメモリ(現社名:マイクロンメモリジャパン)の広島工場も競争力を取り戻し、1000億円の追加投資が行われるまでに回復しているのは良い例である。それでは、日立製作所、三菱電機を母体に設立され、その後NECエレクトロニクスと経営統合し、円高と東日本大震災で大打撃を受けた自動車用マイコンの世界トップのルネサスエレクトロニクス、同じくソニー、東芝、日立製作所から切り出され設立された中小型ディスプレイ専業のジャパンディスプレイなどはどうなのか。

エルピーダメモリだけでなく、この辺りにまで復活の流れが及んでくると電気産業の復活は7合目、8合目まで来たと評価されよう。結論から言えば、復活の可能性は十分あり、そのためには、以下のような経営革新が不可欠だろう。

第一は、経営のスピードをさらに上げること。どちらも産業革新機構が出資し、的確なトップ人事が行われているが、在庫管理、投資タイミング等スピード感のある経営展開が必要だ。第二は、技術者のコ・ワークであろう。たとえば、ジャパンディスプレイは、東芝の低温ポリシリコン技術、ソニーのタッチパネル一体化技術、日立の広視野角化技術など、各社の得意な技術をうまく融合して競争力を高めている。第三は、新技術、新製品、新用途開発の重視だろう。とりわけ、自動車用途の開拓をどううまく行うことができるかが、経営を安定させ、成長力を高めるカギだろう。

マクロ的な視点に戻って言えば、依然競争力が高い自動車、機械に、一時競争力を劣化させた電気産業の競争力が底上げされると、日本経済の潜在成長力を押し上げていく上で大きな力となることは間違いない。

手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。