世界株安には米中日の政策協調が求められる

巻頭言2015年秋号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

8月下旬、上海、ニューヨーク、東京と株安が連鎖し、上海総合指数が6月12日高値5166から8月26日安値2927へ43.3%の下げ、NYダウが5月19日の18312ドルから8月25日15666ドルへ14.4%の下げ、日経平均株価が6月24日の20868円から9月8日の17427円まで16.5%の下げとなっている(終値ベース、執筆時の9月17日時点)。

今回の世界株安の主因は二つ。一つは、中国景気の減速や長引く原油価格低迷にも関わらず、FRB(米連邦準備理事会)が年内利上げを打出し、早ければ9月にも利上げするとの観測が強まり、割高だったNY株価の調整を大きくしたこと。二つは、景気指標が悪化しているのに、中国が小手先の株価下支え策に終始したことだ。突然の人民元切下げも新興国経済のリスクを高めた。

それでは、世界株安からの回復には何が必要か。第一は、FRBが世界経済の情勢を見極めた上で、利上げ時期を調整することだろう。

確かに、雇用情勢は利上げに必要な条件を満たしているが、物価情勢は原油価格安の長期化もあり、整っていない。もし、物価情勢まで利上げを必要としていれば、FRBは金融市場の波乱を多少覚悟してでも利上げすべきだが、ディスインフレ環境の下、急ぐ必要はないように見える。そして、FRBは事実9月の利上げを見送った。今後は中国の景気減速に歯止めをかけるべく、米国政府が中国に財政出動を求め、それを待って動くことが肝要だ。なぜなら、中国経済はすでに日本経済の2倍以上、米国経済の6割にも達する巨大規模に達しているからだ。

第二は、中国が財政出動と構造改革に踏み切ることである。中国経済は年10%成長から年5%成長への過渡期にある。日本に当てはめると、ちょうど年9%成長から年4%成長に下方屈折した40年前の1975年頃に近いと見られる。当時日本は、第一次石油危機によるインフレを金融引き締めで沈静化させたあと、本格的な経済対策に乗り出した。

まず、利下げ、次いで公共投資の拡大、東北・上越新幹線や本四架橋などのナショナルプロジェクトも推進した。「景気回復はミキサー車に乗ってやってくる」という感じだった。同時に、低燃費を武器にした対米自動車輸出の本格化、宅配便、コンビニ、外食などの新サービスの登場などで、産業構造の高度化を進め、乗り切った。

中国も高い財政余力を生かし、1~2兆元の財政出動、メイド・イン・チャイナ2025やインターネットビジネスの推進などを通じ、産業構造の高度化を目指すことが大事だろう。

日本はどうするか。中国を含むアジア向け輸出の不振や消費の回復の遅れから15年4~6月実質GDP(国内総生産)は前期比マイナス成長となり、7~9月は同プラス成長に戻るとは見るものの、回復力は弱い。15年度補正予算を3~5兆円規模で編成し、中低所得世帯への支援を含む消費需要の回復策や設備投資の促進策などを盛り込む必要があろう。また、アベノミクスを前へ進めるため、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉の推進や法人実効税率の30%以下への引下げなども欠かせないだろう。

米国、中国を中心に日本も加わり、世界株安に協調して対応することが求められる。

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