アベノミクスを象徴する好調な日本の企業収益

巻頭言2017年秋号

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

北朝鮮の核・ミサイル開発という地政学リスクを抱える日本株市場にあって、心強いのは、株主価値の源泉となる日本の企業収益が過去最高益を更新し、力強い成長を見せていることだ。

主要企業334社で構成されるラッセル野村大型株の連結経常利益は、16年度で41.3兆円と過去最高利益を連続で更新し、水準もリーマンショック前の最も良かった07年度の35.7兆円を16%上回っている。これは主力製造業の回復と非製造業・サービスの成長によるもので、07年度を100として16年度は製造業が92、非製造業が150となっている。

安倍政権によるアベノミクス推進で景気回復が続き、かつコーポレート・ガバナンス改革の進展で企業の利益意識が高まっているからである。また、見通しも良好で、同連結経常利益は17年度で47.3兆円、18年度で50.5兆円が見込まれている。

ROE(自己資本利益率)も除く金融で10%程度、含む金融で9%台の予想である。詳しく見てみよう。

まず、製造業の回復の原動力は3つある。(1)為替の安定と世界需要の堅調が続く中、国際競争力のある自動車がいち早く07年度の利益水準を更新した。電気自動車や自動運転への対応も進展しつつある。(2)化学ではエチレンの能力削減を行う一方、機能性化学の拡充を進め、また、電機ではテレビや液晶ディスプレイ等の汎用品を縮小し、経営資源を社会インフラや情報サービスにシフトさせる等、構造改革が進んでいる。(3)競争力のある電子部品や半導体製造装置、FA(工場自動化)機器がスマートフォンや大容量サーバー、車載用に新商品を開発・投入し、成長力を高めている。

同じく非製造業の好調も3つの要素が支えている。(1)通信インフラ、インターネットサービスを擁する通信が非製造業・サービスの利益増をリードしている。07年度2.0兆円だった通信の連結経常利益は16年度には3.3兆円に達し、18年度には4.2兆円まで拡大する見通しである。(2)中国を始めとした新興国のダイナミズムを資源、非資源双方のビジネスで取り込むことで利益を伸ばした総合商社の復活がある。(3)東日本大震災後の国土強靭化と都市再開発により建設・不動産の収益力が蘇ったことも重要だ。建設投資は92年度の84兆円から10年度には42兆円と半減した後、16年度(推定)で52兆円まで回復したが、長く続いた建設不況により供給サイドが絞られたため、建設需給はタイトで大手4社の建築粗利率は90年代初頭のバブル期を凌ぐまでに上昇しつつある。

こうして、利益成長を支えに株式市場は緩やかな上昇を続けよう。その際見逃せないのはリスクプレミアムを下げ、バリュエーションを適正に保つ日本銀行のETF(上場投資信託)買いである。日本銀行のETF買いについては、批判もあるが、筆者は地政学リスクにさらされる日本株市場にとっては、強い味方であると考えている。

日本銀行のETF買いと予想PER(株価収益率)(1年先の予想EPS(1株当たり利益)に対するPER)の関係を見ると、16年7月29日にETF買入れ額を年6兆円に拡大した後は、地政学リスクで頭を押さえられつつも14倍台の予想PERが維持されていることに気が付く。

日本銀行の金融緩和政策は為替の円高抑止と日本株市場のバリュエーションの適正化の両面で引き続き役割が大きいと判断している。総選挙後、安倍首相が次期日本銀行総裁に黒田現総裁を含め、どなたを起用するかも注目されよう。

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