適温経済下の株式市場

巻頭言2018年新春号

野村證券金融経済研究所
シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

野村のエコノミストによると、世界の実質GDP(国内総生産)成長率は、18年が3.9%、19年が3.6%と予想されている。景気は良好で、失業率は下がってきているがAI(人工知能)、ロボット等の技術革新もあり、賃金・物価上昇率は鈍く、金融政策はタカ派化(金融引き締め重視)しないため、緩やかな景気拡大が長く続く構図である。熱すぎず、冷たすぎずということから適温経済と呼ぶ。

まず米国経済であるが、09年6月を底に緩やかな回復が8年半続いているが、物価上昇率は鈍く、現在のFF(フェデラル・ファンド)金利は1.375%に過ぎない。仮に18年中に3回計0.75%利上げしても、18年末のFF金利は2.125%で、物価上昇率を差引いた実質FF金利は若干のプラスと景気に中立的な水準に留まる。加えて法人減税等財政政策がプラスに効く。19年まで年2%超の景気拡大が続くと見るのが自然だ。

日本経済も米国経済が好調な中、輸出、設備投資主導で回復傾向にあり、17、18年度ともに1%台の実質GDP成長率が予想される。一方、消費者物価は需給ギャップの縮小、原油価格の回復で18年は1%程度まで上昇しようが、2%の物価目標には届かず、日本銀行の緩和的な金融政策は継続しよう。

こうした中で、アナリストによる企業収益見通しは良好だ。ラッセル野村大型株(含む金融)の連結経常利益は、17年度で15.5%増益、18年度で8.0%増益が見込まれている。内外景気が好調で、為替が安定している上、企業統治改革で、事業の選択と集中、利益重視経営が定着しているからだ。もう一段増益率が上がってもおかしくない。1年後利益に基づく予想PER(株価収益率)は既に14~15倍と適正化しており、利益成長に見合う株価上昇が期待される。18年の日経平均株価は25,000円を越える可能性もあろう。

18年の投資テーマは、米中デカップリング(非連動)であろう。米国景気は税制改革の後押しもあり好調が続く一方、中国景気には5年に1度の共産党大会年の成長率が高く、その後は減速するという共産党大会サイクルがあり、18年はやや減速局面に入る。

日本株で言うと、米国市場依存度の高い電機・精密や自動車の増益率が高く、逆に中国経済の減速が市況の軟化に繋がりやすい化学、鉄鋼・非鉄等の増益率が低いという構図が想定されやすい。事実、アナリストによる業種別増益率や増益寄与も同様な予想となっている。中でも、経営改革の進む家電、電子部品等に注目したい。

次に政策面に目を転じると、幼児教育無償化や18年春闘の3%賃上げ目標等がもたらす消費回復期待が重要だろう。その意味では小売への注目も怠れない。アマゾン・ドットコムと共存しやすいコンビニや、商品開発、売り場改革で差異化をはかる企業が良さそうだ。

さらに新技術や新サービスでは、AI・ロボット、自動運転等に加え、5G(第5世代通信)やアップルペイ等のスマートフォン決済、AIスピーカー等の普及・拡大が注目されよう。インターネットビジネスを含む通信も見逃せない。

日本株以外では、米国株が良いだろう。S&P500指数の1株当たり利益は18年、19年とも10%程度の伸びが予想される上、法人減税で上振れの可能性がある。予想PER等の割高さも幾分修正されよう。10年国債利回りが2%台の低位に留まっているのも大きい。

新興国株はどうか。FRB(連邦準備制度理事会)の利上げ、資産圧縮は米国への資金流出に繋がる側面を持つ。選別の視点が必要で、景気拡大が期待でき、かつ経常黒字国の多いアセアン株が良さそうだ。

最後にリスクに触れておきたい。確率はそう高くないが、北朝鮮有事が最も大きなリスクだろう。当面、石油供給を絞り、外貨獲得手段を狭め、対話に応じるよう圧力を強化していくのが、日米両政府の基本的な方針だが、核・ミサイル開発を止めず、さらなる挑発を行ってくると、軍事シナリオが現実味を帯びてくる。

また中東情勢も留意が怠れない。エルサレムをイスラエルの首都として認めるとした米トランプ政権の政策に反発するテロ活動等がエスカレートしないか注意したい。

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