第4次産業革命を追い風とする電機業界

巻頭言2018年春号

野村證券金融経済研究所
シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

電機業界が久しぶりに好調だ。ラッセル野村大型株ベースの電機・精密セクターの連結経常利益は2016年度で4.0兆円だったが、17年度は5.2兆円と前年比およそ30%増益となり、リーマンショック前で最も良かった07年度の5.0兆円を更新し、過去最高利益が予想されている。そして、18年度には6.2兆円と一段と利益水準を切り上げる見通しである。

好調な理由の第1は、事業の選択と集中の奏功である。たとえば、産業用エレクトロニクスの雄である日立製作所を見ると、プラズマテレビ、HDD、液晶ディスプレイ等の不採算事業を切り離す一方、高速鉄道、IoT(モノのインターネット)等社会インフラ、情報インフラ系のビジネスを拡充し、同時に全社的なコスト削減、利益率向上の動きを強めて来たことが奏功している。今や、米国のGEやドイツのシーメンスよりも安定したビジネス展開が出来ているように見える。

また、民生用エレクトロニクスの雄であるソニーも、韓国、中国勢との競争激化で不採算化した汎用的な液晶テレビや携帯電話事業を止め、今や、エレクトロニクス事業の売上高は年間2兆円台、構成比で30%まで縮小され、高級品中心に採算の取れる事業に変わってきた。一方、得意なゲーム関連や成長著しいイメージセンサー事業に経営資源を集中させ、事業ポートフォリオを大きく変えることに成功した。17年度は連結営業利益が7,200億円と20年ぶりに過去最高利益を更新する見通しである。

好調な理由の第2は、第4次産業革命の追い風が電機業界を押上げ始めていることだ。第4次産業革命とは、AI(人工知能)、IoT、ビッグデータ、自動運転、ドローン民生利用、精密医療等を指し、米国の得意なAIだけでなく、日本が得意な電子部品・センサー、ロボット、半導体製造装置等で電機業界にメリットを与えることになろう。

振り返ってみると、80年代に始まり、90年代に大きな波となったインテル、マイクロソフト、デルコンピュータによるPC時代は、米国と台湾・中国が水平分業モデルで強く結びつき、垂直統合モデルを得意としてきた日本の電機業界の競争力を根底から突き崩すことになった。そして、21世紀に入りアップルが開発したスマートフォンは、携帯電話、ノートPC、デジカメといった単一商品に多大な悪影響を与え、ここでも多くの日本企業は風下に立たされた。

しかし、今始まっている第4次産業革命は、より幅広い商品、技術が必要で、その中には日本が得意にしている領域が多く存在する。たとえば、IoT。さまざまなモノにインターネットが接続されるが、そのモノから情報を収集するには、精度の高いセンサーが不可欠だ。これは日本の得意なセンサービジネスの追い風となる。ロボットも使われるが、ここにも日本の事業機会は多く存在する。

また、ビッグデータの時代は莫大な情報を生み出すために、データセンターで電力コストの低い半導体メモリーが大量に使われることになる。半導体設備投資の拡大は、エッチング装置やメモリーテスター等の日本の得意な半導体製造装置の需要増に結びつく。さらに、自動車の自動運転や電動化は、車載用の半導体、電子部品の莫大な需要を生み出す。ここも電機産業の追い風になるだろう。

最後に、政策的な支援が必要なことを述べておきたい。上で述べたように、第4次産業革命は日本の電機産業の追い風になる。しかし、油断は禁物である。米国だけでなく、中国が製造業の高度化を目指し、半導体設備投資等に国家資金も投入し追い上げて来る。現在の鉄鋼と同じように、半導体分野が過剰生産に陥ることがあってはならない。経済産業省には米国と連携し、そういったことにならないよう留意してもらいたい。

また、第4次産業革命を広く捉えると、データサイエンティスト等の人材育成も大事となる。ただでさえ、ソフトエンジニアの不足が指摘されて久しい。その一方、AIやロボット等に代替される仕事も出て来よう。能力・スキルを生涯アップデートしていく仕組みが求められる。また、時間・契約形態等にとらわれない柔軟な働き方も必要になる。要は産業技術政策、雇用労働政策、社会保障政策等、さまざまな政策を総動員した改革パッケージが必要だ。

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