世界標準の地位を得た国際会計基準
論文2008年夏号
野村證券金融経済研究所投資調査部 野村 嘉浩
目次
- I.はじめに
- II.会計基準を取り巻く最近の動き
- 世界標準となる重み
- ECによる同等性評価
- 米国の会計基準開発動向
- 日本の会計基準開発動向
- III.2011年に向けて
- 新会計基準への対応
- 収斂作業を続けるのか
- 日本でのIFRS適用の議論
- IASBのアジア代表たるべき
- 財務諸表利用者の対応
- IV.財務諸表利用者の留意点
- 企業結合会計の行方
- 包括利益の動向
- V.おわりに
要約と結論
- 欧州委員会(EC)による米国会計基準や日本の会計基準に対する同等性評価の問題は、2008年4月の判断で、概ね決着がついた。一方、米国証券取引委員会(SEC)は、米国に上場する非米国企業に対して、国際会計基準(IFRS)の適用を認め、今や米国企業に対しても、IFRSの適用を検討する議論を進めている。IFRSは完全に世界標準としての地位を得た会計基準として、世界の財務報告制度の中に埋め込まれていく方向性が見えてきた。
- 国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、既存の会計基準の差異解消を進める議論に区切りをつけ、新会計基準の共同開発に経営資源を集中している。そのテーマは、連結範囲(特別目的会社(SPE)問題を含む)、財務諸表の表示、収益認識、公正価値測定、負債と資本の区分など、会計の根幹部分に関わる大きな問題である。これらの議論につき、2011年半ばをメドに審議を完了させる計画を有しており、基準開発のスピードはさらに加速する方向である。
- 企業会計基準委員会(ASBJ)は、2007年8月にIASBとの間で締結した「東京合意」に則り、2011年までに日本の会計基準をIFRSに収斂させる動きを進めている。日本でも、収斂の先にIFRSの適用を議論する時機が到来する可能性がある。
- 一連の動きをフォローすることは、企業分析を行なう財務諸表利用者にとっても重要な作業となる。特に日本では、企業結合や財務諸表の表示の分野において、のれんの会計処理や包括利益の開示などの検討を始める時期が追っている。議論の行方を注意深く見守ると同時に、財務諸表利用者の立場から、積極的な意見発信を行なう必要性が出てくるだろう。また、日本の株式市場に投資を行なう投資家にとって、一段と身近になるIFRSを習熟する必要性がますます強まるものと予想される。