消費者物価の見通しと「二次的効果」発生の可能性
論文2008年秋号
野村證券金融経済研究所経済調査部 岡田 公現
目次
- I.はじめに
- II.併存する輸入インフレと需要デフレ
- 石油と食料に偏った輸入物価の上昇
- 国内景気がもたらすデフレ圧力
- 非耐久財とサービスで高まるインフレ圧力
- III.CPIの定式化と見通し
- 食料価格の変動とその要因
- 輸入小麦価格がCPIへ与える影響
- 食料価格の定式化
- 原油価格上昇の影響
- デフレが続く品目の特徴
- CPIの推計と見通し
- IV.輸入インフレの「二次的効果」
- 日銀も言及し始めた「二次的効果」
- 既に上昇した家計の予想インフレ率
- 注目される賃金の動向
- 「二次的効果」発生の可能性と規模
- 賃金から物価への波及経路
- V.おわりに
要約と結論
- 2007年10月以降、全国消費者物価指数(以下、CPIと略称)は前年同月比で上昇基調に転じた。しかし、価格上昇は食料と石油製品に偏り、下落が続く品目も未だ多い。物価上昇圧力が全ての財・サービスに及んでいない点が足下の特徴である。
- この要因は3つある。第1に、CPIの上昇が輸入物価の上昇に起因すること、第2に、輸入物価の上昇が石油、石炭や食料に偏っていること、第3に国内景気が力強さを欠き、現在も物価全体に下押し圧力が働いていることである。特に、第2と第3の点は過去の石油ショック時にも見られなかった現象である。
- CPIの先行きを占うため、(1)食料、(2)石油製品・公共料金、(3)「その他」の品目にCPIを分けて、今後の動向を検討した。食料は輸入物価を先行き一定とすれば、2009年まで前年同月比が高止まるが、その後上昇率は低下しよう。石油製品は、原油相場が9月上旬の水準を今後も保てば、今後、上昇率を急速に低下させよう。ただし、電気代や都市ガス代はエネルギー価格に遅れて変化するため、これらの品目は2009年初にCPIを小幅押し上げよう。「その他」品目は景気減速の影響で、当面は前年同月比横ばい程度の推移となろう。以上から、CPI総合指数から生鮮食品を除いたコアCPIは、2008年度は前年度比+1.8%、2009年度は同+0.9%と予想する。
- 物価に関する議論の中で、石油製品や食料の価格上昇が予想インフレ率や賃金の上昇を通じて広範な財やサービスの価格上昇を引き起こす「セカンド・ラウンド・エフェクト(二次的効果)」に対する注目がわが国でも高まりつつある。予想インフレ率の上昇は既に生じているが、物価上昇率が賃金改定率に反映される程度は小さいと予想されることや、2000年代には賃金の変化が産出価格に転嫁されにくくなっていることを踏まえれば、当面は「二次的効果」が発生する可能性は低いと考える。