公的年金積立金運用のガバナンスをめぐる議論
論文2008年秋号
野村資本市場研究所 野村 亜紀子
目次
- I.はじめに
- II.公的年金積立金運用の論点
- 公的年金積立金とは
- 公的年金積立金運用ガバナンスの特徴
- 優れた運用ガバナンスとは
- III.海外の公的年金積立金運用
- 公的年金積立金の目的
- 政治・政府からの独立性
- ガバナンスの下での運用実態
- 説明責任・情報開示
- IV.おわりに
- 運用組織の独立性
- 統治主体の専門性
- 役職員の専門性と報酬
- 自律的な変革
要約と結論
- 公的年金積立金とは、公的年金制度において、現在の退職者への給付に回す必要のない余剰資金である。日本を含む多くの先進諸国が積立金の市場運用を行っている。積立金運用は、政府本体とは別の公的な組織が手掛けるのが一般的で、同組織をめぐる運用ガバナンスの確立が重要となる。ガバナンスの一つのポイントは、政府や政治からの介入を阻止するための独立性確保にある。
- 海外先進諸国の公的年金積立金運用組織を見ると、独立性確保の方策として、運用組織における統治主体と運用実行部隊を分離し、前者が後者を監督する体制がしかれている。統治主体に当たる理事会には、専門性を理事の資格要件とする「専門家理事会」と、公的年金制度のステークホルダー代表が理事になる「ステークホルダー参加型理事会」の2つのタイプがあり、各々、メリット・デメリットを有する。
- 海外の運用組織における運用体制や運用内容はさまざまである。運用を全て外部委託するところもあれば、インハウス運用比率の高いところもある。自国債への投資を禁じている国や、全額海外運用の国もある。他方、アセット・クラスの拡大と海外運用比率の上昇が、多くの諸国に共通の傾向として見られる。
- 日本では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公的年金積立金の運用を手掛けるが、そのガバナンス体制を海外事例と比較すると、統治主体と運用実行部隊の分離及び統治主体による監督という形が取られていない。諸外国の積立金運用組織は、理事会によるガバナンスの下で最適な運用を目指して変革を続けており、日本においてもガバナンス改革に早急に着手する必要があると考える。