資産運用ハブとして成長するシンガポール
論文2008年秋号
野村シンガポール 浦出 隆行
目次
- I.はじめに
- II.市場拡大の背景:資本フローの変化
- 富裕層マネーの拡大
- オイルマネーの拡大
- 欧州からの資金シフト
- III.市場育成に向けた政府の取り組み
- プライベートバンキング
- REIT
- イスラム金融
- 商品デリバティブ
- IV.資産運用市場の拡大
- 市場拡大:概要
- プライベートバンキング
- イスラム金融
- REIT
- マクロ経済面での影響
- V.今後の展望
- 市場拡大の見通し
- 今後の課題
- VI.おわりに
要約と結論
- シンガポールの資産運用業界における預り資産残高(AUM)が急速に増加している。その背景としては、(1)域内における富裕層増加、(2)オイルマネーのプレゼンス増大、(3)欧州連合(EU)における貯蓄課税の制度変更による欧州からの資金シフトの3点が挙げられる。
- シンガポール政府は、同国を資産運用ハブとして育成するために、さまざまな優遇措置を導入してきた。とりわけ2002年以降、さまざまな税制面での優遇措置が導入され、外資金融機関が誘致された。2005年2月、リー・シェンロン首相は、政府が(1)プライベートバンキング、(2)REIT、(3)イスラム金融、(4)商品デリバティブの発展に取り組むと発表し、これら4つの戦略分野に照準を絞った市場振興策が進められてきた。
- 資産運用業界の成長は、AUM、同業界の従事者数、取引のフロー、そして市場の評価向上という形で実を結びつつある。上述した4つの戦略分野のうち、プライベートバンキングではシンガポールにアジア本部機能を置く傾向が強まっており、REIT市場も急速に拡大している。また、商品デリバティブ取引も大きく伸びている。
- 資産運用業界の成長により、同業界のGDPに占める割合は、1990年の0.2%から2009年には4.5%に拡大すると我々はみている。一方、同業界はいくつかの課題にも直面している。これらには、(1)不動産価格の上昇による事業コストの上昇、(2)米国サブプライム問題に直面する大手金融機関のプレゼンス維持、(3)顧客のプライバシー保護と国際的な法規制遵守とのバランス、(4)専門的な人材の供給維持、(5)イスラム金融の発展戦略の明確化が含まれる。