目前に迫る国際会計基準の適用

論文2009年夏号

野村證券金融経済研究所投資調査部 野村 嘉浩

目次

  1. I.はじめに
  2. II.日本の会計基準開発の方向性
    1. 同等性評価への対応
    2. 連結先行論の台頭
    3. MOU項目に関する論点整理
    4. IASBのアジア代表たるべき
  3. III.金融危機対応の時価会計問題
    1. 金融安定化フォーラム報告書が契機
    2. 2008年10月の緊急対応
    3. 政府首脳レベル会合はG20に発展
    4. 2009年4月の緊急対応
    5. 今後のIASBの対応
  4. IV.IFRS適用に当たって
    1. 米日で選択適用が始まる
    2. 規制当局の監視が強化
    3. IFRS適用に向けた実務論点を抽出
    4. IFRS適用による影響
  5. V.おわりに ~時価とは何か、利益とは何か

要約と結論

  1. 昨2008年半ばから今日に至る国際会計事情は、さらなる変革を経験している。米国と日本の規制当局が国際会計基準(IFRS)の適用に向けた準備を進める一方、IFRSを開発する国際会計基準審議会(IASB)は、金融危機に対応する形で、金融商品関連の会計基準改革に多くの時間を費やした。
  2. 欧州連合(EU)やアジア・オセアニア諸国の間でIFRSの普及が着実に浸透する中、米国の証券取引委員会(SEC)と日本の金融庁は、相次いで、自国企業に対するIFRSの適用に向けた準備を進めつつある。両国とも早ければ2009年度から選択適用を容認する制度整備を進め、必須適用についても、2014~15年度には実現する可能性を視野に入れた。日本でも、国内向けに財務諸表利用者、作成者、監査人に対するIFRS教育・啓蒙に注力する一方、国際的には規制当局や会計基準開発主体を通じたIASBへの影響力強化に努めている。
  3. 一方、IFRSを開発するIASBは、金融危機への対応を迫られる中、金融商品関連の会計基準改革を急ピッチで進めている。債券や株式に代表される金融資産について、その評価・測定の問題、金融資産の認識の中止の問題、特別目的事業体(SPE)のオンバランスや開示強化の問題などを、2009年末から2010年前半までに抜本的に改革する議論を展開している。
  4. その過程で、改めて「時価とは何か」、「利益とは何か」が問われている。前者については、保有債券に関する市場価格による評価への信認が揺らいだ。後者については、保有株式の減損損失や売却損益につき、純利益に反映させない議論も展開されている。財務諸表利用者にとって、財務情報の価値を改めて見直す機会が提供されている。