本格化する国際的な金融制度改革
論文2009年秋号
野村資本市場研究所 小立 敬
目次
- I.はじめに
- II.金融危機の教訓と改革の方向性
- 金融危機で学んだこと
- 金融制度改革の全体的な方向性
- III.国際的な金融機関規制の強化
- バーゼル銀行規制の強化
- バーゼルIIの見直し
- レバレッジ規制の導入
- より強固な流動性バッファー
- リスク管理の強化
- 報酬慣行の見直し
- IV.欧米で進展する金融制度改革
- すでに本格化した欧米の改革
- 米国の金融規制改革法案
- 欧州の金融制度改革
- 英国の金融制度改革
- V.おわりに
要約と結論
- 金融危機の教訓として、(1)市場型システミック・リスクへの対応の必要性、(2)プルーデンス監督・規制の不備、(3)プロシクリカリティへの対応、(4)リスクテイクの背景にある金融機関の報酬慣行の問題が明らかになった。そのような教訓を踏まえて、現在、G20の強力なイニシアティブの下で国際的な金融制度改革が行われようとしている。金融制度改革では、(1)「システム上重要」(systemically important)な金融機関・市場・商品、(2)マクロ・プルーデンス、(3)バーゼル銀行規制、(4)国際的な協力・協調が検討のポイン卜となっている。
- G20にはバーゼル委員会のほかに、IOSCO等も参加しているが、重要な規制の設定はほとんどバーゼル委員会によって行われる。自己資本の質の強化としては普通株式と内部留保を重視する方向が明らかになっており、バーゼル委員会の上位機関である中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループは、ティア1資本の主要な部分は普通株式と内部留保で構成されるべきことを明らかにしている。さらに、新たな規制として資本バッファーやレバレッジ規制が導入される。バーゼル委員会はこれらについて、2009年末までに具体的な提案を行い、2010年末までに規制の枠組みを確定する方針を示している。全体としてかなりの速度で規制改革が進展している。
- さらに、欧米の動向をみると、すでに金融制度改革が本格化している。米国のオバマ政権は、6月に金融制度改革の具体像を明らかにした。そして、8月中旬までに13編の法案で構成する金融規制改革法案を連邦議会に順次提出し、法案の審議を開始している。一方、欧州では、欧州議会および閣僚理事会の採決を経てすでに確定した規制があるほか、さらに金融制度改革の検討を前進させている。