日本の出生率上昇の背景を探る
論文2010年新春号
野村證券金融経済研究所経済調査部 桑原 真樹
目次
- I.はじめに
- II.出生率と婚姻行動
- 年齢別・地域別の出生率動向
- 婚姻「増加」が出生率上昇の背景
- III.女性の労働参加と出生率
- 仕事と家庭のトレードオフ
- 仕事と家庭両立の時代?
- IV.保育所需要拡大に見る女性行動の変化
- トレードオフの源泉
- 意外だった保育所需要の拡大
- V.女性の行動変化を後押しする施策
- VI.おわりに
要約と結論
- 日本の合計特出生率は、2006年以降3年連続で上昇し、2008年には1.37となった。いまだに水準は低いとはいえ、多くの予想を上回る上昇であったと考えられる。それが一時的な動きであるか否かを判断するのは難しいものの、日本経済の長期的な見通しに対する重要性を考えれば、最近の出生率上昇の背景を分析しておく意義はあろう。
- 日本の合計特殊出生率が2を下回って大きく低下してきたことの大きな背景は、女性が仕事と家庭とのトレードオフに直面していることであると考えられる。両者の両立が難しい中、1970年代以降は女性が仕事を選ぶ傾向が強まったため、婚姻数が減少してきた。その結果、結婚したカップルがもうける子供の数はそれほど減少していないにもかかわらず、全体の出生率は大きく低下した。
- 一方近年では、女性の就業率が引き続き上昇傾向にあるにもかかわらず、人口構成を調整した「初婚率」も2005年以降上昇してきた。最近の合計特殊出生率上昇は、より多くの結婚と就業とを伴う形で進んできたことになる。日本の女性は、これまでよりも積極的に仕事と家庭を両立させる方向へと動いているようだ。
- 減少傾向にあった保育所に対する需要は、1990年代の半ばに増加傾向に転じた。ここからも、日本の女性が仕事と家庭を両立させる姿勢を強めていることが伺える。ただし、思わぬ需要増加の結果、保育所の不足が深刻となっており、女性が新たなライフスタイルを確立しようとする際のボトルネックになっていると考えられる。一つの目安として、2020年に400万人分の定員を確保することを目標に、保育所の増設を進めることを提案する。