アジア経済の次なる10年を展望する

論文2010年新春号

野村證券金融経済研究所経済調査部 浦出 隆行

目次

  1. I.はじめに
  2. II.アジアの高成長を支えてきたもの
    1. 成長会計による比較
    2. 高まる危機への耐性
  3. III.アジアが成長性を維持するために
    1. 中期的な人口高齢化の克服に向けて
    2. 資本フローの一層の安定化
    3. 域内協力のさらなる進展
    4. 2011~2020年の潜在成長率推計
  4. IV.おわりに

要約と結論

  1. 1980年代以降続いてきたアジアの高成長は、資本蓄積や労働投入によるところが大きく、例えば域内最速で成長してきた中国では、高い国内貯蓄率に支えられた資本投入の寄与が大きい。一方、ASEAN各国や韓国では、資本・労働投入の寄与度が低下している反面、生産性向上や産業高度化によるTFP(全要素生産性)の改善が貢献している。またインドでもTFPが大きな役割を果たし始めている。
  2. さらに域内経済が、これまでの経済・金融危機を通して対外的な脆弱性を克服してきたことも大きい。とりわけアジア通貨危機を契機とした為替制度の柔軟化により、多くの国が経常黒字と外貨準備を積み上げ、資本収支に残る不安定性を吸収してきた。また、通貨スワップ協定網等の域内金融協力も、危機への耐性強化に寄与している。
  3. アジアが足元の高成長率を中期的に維持していくには、(1)人口高齢化の影響克服、(2)資本フローの安定化、(3)域内協力のさらなる進展が必要となろう。(1)は、高齢者・女性・外国人労働力の活用、資本効率向上、投資拡大のための環境整備、産業構造の高度化、財政負担拡大への対応、(2)では、拡大する中国経済、わが国からの投資資金、中東などの域外資金の活用が考えられよう。また(3)では、金融分野での協力関係を、共同体の枠組みを通じて、「モノ」や「ヒ卜」の流れにも広げていく必要がある。
  4. 以上を踏まえた2011~20年の潜在成長率の推計では、多くの国で、仮に資本蓄積の加速、女性や高齢者の労働参加率上昇があったとしても、従来の潜在成長率を維持するのは困難で、今後はTFPの改善が経済成長を維持する鍵という結論を得た。成長力におけるアジアの優位は当面続くものの、中長期的には「質」重視の成長戦略が必要となろう。また成長性を有する限り、それを求めて流入した資本が流出するリスクはつきまとうが、今後も引続きそうしたリスクをコントロールしながら、残された成長機会を無駄なく具現化していくことが必要である。