株式取引システムの構造変化と流動性への影響
論文2010年新春号
野村證券金融工学研究センター 大庭 昭彦
目次
- I.はじめに
- II.流動性指標に見る世界の中の日本
- 世界の株式の平均取引間隔
- 実効スプレッド比較
- マーケットインパクトの違い
- III.東証次世代システム「arrowhead」
- arrowhead開発経緯
- arrowheadの概要
- IV.変化の影響
- 刻み幅縮小の影響
- 回線高速化の影響
- その他の影響
- V.アルゴトレード増加の影響
- 米国での"アルゴ悪玉論"
- アルゴトレードと取引コスト
- アルゴと人間の比較
- VI.おわりに
要約と結論
- 東京証券取引所(以下東証)の次世代システム「arrowhead」が2010年1月4日より稼働する予定である。新システムについて、東証の唱える特徴は、高速性、信頼性、拡張性である。特に「注文応答時間10ミリ秒以下を目指す」というスピードの変化については従来の応答時間の100倍にも匹敵する目標である。システムの変化に合わせて、従来から流動性を阻害する要因とされてきた取引ルール等も同時に変更されるという点が市場関係者の注目を浴びている。どの変更点の影響も市場流動性の拡大を求めてのものとなっている。
- 本稿ではこの新システムの稼働で日本の株式市場がどのように変わるかを考える。そのために、まず従来の日本の大型株の流動性は世界全体と比べると低いということを数値的に確認した。具体的には取引頻度が低く、スプレッドが広く、マーケットインパク卜が大きい。東証次世代システムでは、高速化・安定化を狙うとともに、重要な取引ルールを、流動性が高まる方向に変更する。考えられる個別の影響としては以下の様なものがある。
- 刻み幅縮小によりスプレッドコストが低くなり、注文量が増大する。
- 回線の高速化によりマーケットインパク卜が低下する。判断スピードの価値が高まり、この影響でアルゴトレードが増加する。
- 制限値幅が拡大することにより取引停止確率が減少する。
- 総合的に見て、現在の日本市場の特異性が軽減され、世界の先進国並みの流動性を持つ市場になっていくことが期待される。