少子高齢化の進展で変わる個人金融資産の将来像
論文2010年秋号
野村資本市場研究所 宮本 佐知子
目次
- I.はじめに
- II.少子高齢化社会における個人金融資産の展望
- 少子高齢化が個人資産総額へ及ぼす影響
- 少子高齢化が個人資産構成へ及ぼす影響
- III.少子高齢化社会で高まる相続の重要性
- 増加する相続資産
- 相続の重要性が高まる理由
- 見えざる資産移動
- IV.個人金融資産はどこへ集まるのか
- 個人間の資産分布はどう変わるのか
- 世代間の資産分布はどう変わるのか
- 地域間の資産分布はどう変わるのか
- V.わが国への示唆
- 個人金融資産の重要性
- 個人金融資産を維持・拡大するために
- VI.金融機関への示唆
- 変わるリテールビジネスチャンス
- 取引履歴を予め作るために
- 魅力的な商品・サービスを提供するために
- サービスの利便性を高めるために
- VII.おわりに
要約と結論
- わが国の個人金融資産は、今大きな転換期を迎えている。今後は人口動態という長期的で確実な要素によって、個人金融資産の構造が変わる要素が増えてくるからである。
- 少子高齢化社会では、「貯蓄する人」が減り「貯蓄を取崩す人」が増えてゆく。現状の世代別・就労別の貯蓄率が変わらないと想定し、今後の人口構成の変化が及ぼす影響を試算すると、急速な高齢化と退職世帯の貯蓄取崩しが及ぼす影響は大きく、個人金融資産総額は2020年までに約35兆円減少するとの結果が得られた。
- 人口動態の変化で今後、増加するのが相続資産である。相続を通じた個人間・世代間・地域間での資産移動は、個人資産分布に大きな影響を与えると見られる。
- わが国にとって、個人金融資産を減らさないことは重要な意味を持つ。そのためには、現在ある人的資本や金融資産をそれぞれ有効活用する方策が考えられ、国や地方自治体による政策的なサポートが望まれよう。
- 金融機関にとっては、個人金融資産を巡る競争は、いわば「限られたパイの奪いあい」を意味しよう。金融機関は、(1)年間50兆円以上の個人資産が毎年相続で動くことと、(2)相続資産が地域を越えて移るために個人資産は大都市圏へ一層偏ってゆくこと、という大きな潮流変化に対して、早くから戦略を立てるべきであろう。