景気循環調整後PER(CAPER)に基づく考察
論文2010年秋号
野村證券金融経済研究所投資調査部 阿部 健児
目次
- I.はじめに
- II.S&P500の景気循環調整後PER
- 景気循環調整後PERとは
- S&P500のCAPERの推移
- CAPERと長期株価騰落率
- III.TOPIXのCAPER
- 他のバリュエーション指標との比較
- CAPERによるTOPIX騰落率推計
- IV.CAPERを用いた銘柄選択
- 標準化CAPERの導入
- 標準化CAPERに基づく銘柄選択
- 過去のパフォーマンス
- 標準化CAPERが機能する理由
- V.おわりに
要約と結論
- 1934年に出版した『証券分析』の中で、PERの計算には、過去7年~10年にわたる利益の平均を用いるのが望ましいとグラハム達は論じた。この考え方を基にシラー教授達は、米国の株価指数S&P500株価指数について株価と過去10年の利益の平均との比率を計算した。
- 10年間の利益の平均は景気循環の影響を除いた潜在的な企業収益の近似値とも解釈できることから、この比率は現在では景気循環調整後PER(Cyclically Adjusted PER、CAPER)と呼ばれている。CAPERが高く(低く)、株価が割高(割安)と判断された後の株価のパフォーマンスは悪い(良い)という関係がみられることをシラー教授達は指摘した。
- TOPIXについてCAPERを計算しても、CAPERが低く(高く)、日本株が割安(割高)と判断されるときにその後のTOPIXの騰落率が高い(低い)という関係がみられる。その関係から2010年8月末時点の25カ月先騰落率を推計したところ年率で20%台後半と高い水準となった。日本株は割安であり、中期的に期待されるリターンは魅力的と考えられる。
- CAPERを銘柄選択に用いる際に注意が必要なのはCAPERの循環する範囲は企業ごとに大きく異なることである。そのためCAPERの絶対値は低く(高く)とも、過去に循環してきた範囲に比べると必ずしも割安(割高)でない企業も存在する。そこで企業ごとのCAPERの平均値や標準偏差の違いを調整した上で株価の割安度を判断する指標を考案し、標準化CAPERと名付けた。
- 標準化していないCAPERよりも標準化CAPERを用いた方が銘柄選択の精度は高い。標準化CAPERに基づく銘柄選択は、分析対象とした1993年から2009年の間、景気回復後半局面も含めてどのような景気局面でも概して有効に機能した。