中期経済見通し2011
-列島再編:地域多様性が生み出す日本の活力-

論文2011年新春号

野村證券金融経済研究所経済調査部 和田 理都子、浦出 隆行、桑原 真樹

目次

  1. I.はじめに
  2. II.デフレ終結のタイミングと財政危機
    1. デフレ終結のタイミング
    2. 財政危機のリスクに注意
    3. 今後10年間の日本経済の姿
  3. III.21世紀を地方・都市の世紀へ
    1. 日本の人口趨勢と都市への期待
    2. NUCUPSの開発と分析の前提
    3. 第一段階:都市の発展段階
    4. 第二段階:「都市力」
  4. IV.「一体化」するアジアの中、「多様化」を迫られる日本
    1. 「一体化」に向かうアジア域内経済
    2. 「国際化」が求められる地域経済
    3. 地域はどうアジアと向かい合うべきか?
  5. V.おわりに

要約と結論

  1. これからの10年間は、人口の減少が本格化していく時代である。需要の伸びにくさから日本経済は低成長を強いられる可能性が高いが、それは必ずしもデフレの継続を意味しない。労働供給の減少により低成長でもデフレが終結し、インフレが再来する可能性を考慮に入れるべきだ。市場でインフレ期待とともに長期金利が上昇し、政府の利払い負担増加に対する懸念が台頭した場合、スパイラル的に長期金利が高騰するリスクがある。デフレが終わる時代は、財政危機防止への取り組みが一層重要となる時代でもあり、実効性の高い財政再建計画の策定はもちろん、日本経済の長期的な成長力を底上げする取り組みが必要となる。
  2. 21世紀に経済の底上げを担うのは地域であろう。人と産業と自治体を有機的に結び付ける「装置としての都市」が実力を発揮できる構造にできるか。我々が開発した都市力計測システムを用いて、全都市の発展段階と自立性・効率性・コンパク卜さの関係を分析した。その結果、10万人近辺の人口規模に都市力を発揮できるか否かの境界線があることが分かった。規模に注目した再編も視野に、都市の衰退を表わす「逆都市化」段階から脱却することが、地域多様性が実現する第一歩となろう。
  3. もうひとつの鍵は、近年、「ヒ卜・モノ・カネの流れ」において急速に一体化がすすむアジア経済の活力を、各地域が取り込んでゆくことである。わが国の各地域は、国家としても成り立ちうる規模を有しているにもかかわらず、これまでの一極集中の弊害もあって、国外に対しては十分に聞かれておらず、それが経済効率を損なってきた可能性が高い。各地域が「県境」や「国境」を越えて、アジアの国々との間で独自の経済圏を形成し、積極的な役割を担っていくことこそが、地域経済、ひいては日本経済全体を活性化させる鍵となろう。そのために、既存の切り分けとは異なる発想に基づく、未来志向の経済圏構想を提案する。