震災とカタストロフ・ボンド(CAT債)市場

論文2011年夏号

野村證券金融工学研究センター 大本 隆

目次

  1. I.はじめに
  2. II.CAT債(CAT Bond)の定義と特徴
    1. CAT債とは何か
    2. CAT債の組成
    3. 東日本大震災時のCAT債
    4. CAT債のイベント・トリガー
    5. リスク・ファイナンス
  3. III.CAT債投資の数理
    1. 一つの資産クラスとしてのCAT債
    2. クレジット投資の代替手法
    3. 証券化商品、再保険との比較
  4. IV.おわりに
    1. CAT債、CATデリバティブの未来
    2. 保険と金融の今後

要約と結論

  1. 震災のようなカタストロフ(大規模災害)は大数の法則が効かない世界なので、従来の保険・再保険ではカバーしにくい。保険リスクのエクスポージャーを再保険市場から資本市場に移転する仕組みとして、十数年前から登場したART(代替的リスク移転)、特にカタストロフ・ボンド(CAT債)が注目されている。
  2. CAT債のイベント・トリガーには、パラメトリック型、モデル損失型、実損型などがあり、複数のトリガーが関係するマルチ・トリガー、マルチ・ペリルという参照方式もある。CATリスクの分散と集中はトリガー設計に大きく依存する。
  3. CAT債の数理と投資対象としての魅力について、三つの観点から解説する。
    1. 1)分散投資の観点-他の伝統的資産との低相関性から、ポートフォリオに組み込む資産として有望である。
    2. 2)クレジット投資の観点-リスクプレミアム・パズルといわれるぐらい、CAT債のスプレッドは大きい(ハイ・クーポン)。
    3. 3)証券化商品投資の観点-商品設計の特徴として類似するところがある。
  4. CAT債市場の成長は堅調で、毎年数十億米ドル規模の新規発行が十年超続いている。今回の震災後では、トリガーや設計、リスク管理の再考が求められるであろうが、CAT債及びCATデリバティブ市場は拡大すると考えられる。