試練に立つ人口大国・中国-労働力過剰から不足へ

論文2011年秋号

野村資本市場研究所 関 志雄

目次

  1. I.はじめに
  2. II.一人っ子政策で減少に向かう生産年齢人口
    1. 中国における人口政策の推移
    2. 少子化と高齢化の進行
  3. III.進む労働力の農村部から都市部への移転
    1. 農村と農業から都市と工業・サービス業に移る経済の中心
    2. 労働力の移動を促す戸籍制度改革
  4. IV.労働力が過剰から不足へ
    1. ルイス転換点の到来を示唆する出稼ぎ労働者不足
    2. ポスト・ルイス転換点の中国が直面する機会と挑戦
  5. V.高成長を持続させる産業の高度化と中西部の躍進
    1. 成長パターン転換のカギとなる産業高度化
    2. 中西部の発展の加速
  6. VI.結び:減速しながらも9%に達する今後5年間の経済成長率

要約と結論

  1. 中国では、1980年代の初めに一人っ子政策が実施された。当初は、少子化が高齢化より先行する形で、生産年齢人口の比重が上昇することにより、経済成長に有利に働く「人口ボーナス」が発生した。しかし、ここにきて、高齢化の足音も聞こえ始めており、生産年齢人口は2015年までに低下傾向に転換すると予想される。これを背景に一人っ子政策が見直されつつある。
  2. 経済発展に伴う第二次産業と第三次産業における労働力への需要の急拡大に加え、戸籍制度改革の進展にも促され、農村部から都市部への大規模な労働力の移動はすでに起こっており、農村部における過剰労働力が解消されつつある。生産年齢人口の伸びの鈍化も加わり、中国は、発展過程における完全雇用の段階に到達することを意味する「ルイス転換点」にさしかかっている。
  3. 完全雇用の達成をきっかけに、労働力の供給がさらなる成長の制約になりかねず、政府の政策の優先順位も雇用重視から生産性重視に変わっていくだろう。大量の雇用機会を創出しなければならないという制約から解放されれば、中国は、労働集約型産業から「卒業」し、より付加価値の高い分野に資源をシフトする形で、産業の高度化が加速するだろう。最近、中国において、労働集約型産業が不振に陥る一方で自動車や鉄鋼といった重工業が躍進を遂げているように、産業の高度化は着々と進んでいる。
  4. 東部地域における賃金と土地価格の高騰を受けて、外資を中心とする企業は、東部から中西部への生産移転を加速させている。これを背景に、2007年以降、中西部の成長率は東部を上回るようになった。今後、「西高東低型成長」がそのまま定着すると予想され、中西部は、東部を追い上げる形で、中国全体の成長をけん引するエンジンとなろう。