事業ポートフォリオ評価の方法
論文2012年新春号
野村證券クオンツ・ソリューション・リサーチ部 山本 裕樹
目次
- I.はじめに
- II.セグメントデータと事業ポートフォリオ行列
- セグメントデータ
- 事業ポートフォリオ行列
- III.産業ベンチマークモデル
- 概要
- 推定された産業ベンチマーク
- 産業ベンチマークによるセグメント評価
- IV.ファンダメンタルズ(ROA)評価モデル
- モデルの構造
- 推定結果
- V.市場評価(資本コスト)モデル
- リスク分散指数
- モデルの構造
- 推定結果
- VI.モデルを活用した事業ポートフォリオ評価
- ROA、企業価値の要因分解
- 事業投資計画の評価
- M&Aの評価
- VII.おわりに
要約と結論
- 多くの事業を営む多角化企業では、各事業セグメン卜への経営資源の配分は重要な経営課題である。事業の成長性、収益性、リスクを評価し、さらに事業間のシナジーやリスク分散といった組合せも考慮する必要がある。本稿では、このような事業ポートフォリオを評価する定量モデルを構築し、効率的に管理する方法を提案している。
- 事業セグメン卜の業績やリスクを相対比較するために、各産業の平均的な成長率、ROAやβを推計した。得られた各産業の将来成長率やβを今後の事業投資計画に活用することができる。セグメン卜評価の例として、実際に昭和電工のセグメン卜評価例を示した。
- 事業ポートフォリオの組合せがファンダメンタルズ(ROA:総資本利益率)に与える影響を分析した。分析から、シナジーの大きい産業の組合せが明らかになった。また、規模の経済とコングロマリッ卜・ディスカウン卜の大きさも推定され、多角化と規模拡大の最適なバランスを論じることができる。
- 事業ポートフォリオの組合せが市場評価(資本コスト)に与える影響を分析した。多角化によるリスク分散の効果を、市場は相当程度評価しており、リスク分散が資本コストの低減に寄与することが明らかとなった。また、規模拡大も資本コストの低減に寄与するが、コングロマリッ卜・ディスカウン卜は資本コストとの相聞が確認されなかった。
- 開発したモデルを活用した、事業ポートフォリオ評価と新規事業投資、M&Aのシミュレーションの例を紹介した。現状の事業ポートフォリオの効率性を分析し、改善のための具体的なアクションを評価することができる。事業ポートフォリオが大きく変化するような経営戦略はリスクも大きく、事前に十分に成否を検討する必要があるが、本稿のモデルは定量面からこのような分析をサポー卜するのに適している。
- 国内企業は欧米に比べて多角化を好む傾向があり、事業ポートフォリオの効率化は重要の課題である。本稿の分析を用いると、海外M&Aや新興産業への投資といった、低成長に苦しむ日本企業が検討する経営戦略を統計的に評価することができる。