市場流動性と株主価値評価
論文2012年夏号
野村證券金融工学研究センター 牛島 祐亮
目次
- I.はじめに
- II.市場流動性と市場株価の関係
- 先行研究とリスクプレミアム推計
- ILLIQの解釈と指標値の分布
- III.市場流動性の要因分析
- 想定される要因と仮説
- 分位分析による関係性評価
- 多変量回帰分析による評価
- IV.流動性リスクを考慮した株主価値評価
- 流動性リスクがある場合の株価形成
- 流動性リスクと株主資本コスト
- 個別株式の流動性リスクプレミアム
- 流動性ベータとILLIQの関係
- V.市場流動性の改善に伴う株主価値向上効果のシミュレーション
- 市場流動性の改善効果の推計
- 流動性改善時の株主価値向上効果
- VI.おわりに
- 本稿のまとめ
- 結びにかえて
要約と結論
- 本稿は市場流動性と株主価値評価の関係に焦点をあてている。その中で、市場の株価形成と関連が見られる流動性指標として、マーケット・インパク卜の代理変数と解釈できるILLIQ(株式の非流動性を計る指標)に着目した。
- ILLIQを用いて市場流動性を観察すると、市場流動性には大きな違いが株式間に存在する事が分かる。統計モデルにより要因を分析すると、発行体の事業規模以外に株主構成や信用力、市場制度などが影響している事が示唆された。市場流動性を高める為には一定の事業規模も求められるが、株主政策も無視できない要因となろう。積極的なIR(投資家広報)により株主ベースを拡大することは有意義であるし、企業間の株式持ち合いは流動性の低下を招く意味でネガティブな側面があることが推察される。
- 流動性リスクを反映した株主価値評価を行う枠組みとして、2ファクターモデル(市場ファクター、流動性ファクターにより株主資本コストを評価するモデル)を紹介した。本手法を用いることで、株式固有の流動性リスクを株主価値評価に反映することが可能となる。
- 本稿で示す枠組みを用いて、市場流動性が変化する場合の株主価値への影響を推計可能となる。実在する企業を題材に、安定株主が株式売却を行った場合の市場流動性の改善効果、株主価値の向上効果を試算した。これらの枠組みは株式持ち合いや株主政策を考える上でも利用できるだろう。