2012~14年度の日本経済見通し

論文2013年新春号

野村證券金融経済研究所 経済調査部 木下 智夫、尾畑 秀一、岡崎 康平、土田 明寿香

目次

  1. I.はじめに
  2. II.景気後退からの脱却を模索する日本経済
    1. 7~9月期は2四半期連続のマイナス成長に
    2. 4~6月期には景気後退局面入り
    3. 景気後退局面が長期化する可能性は低い
    4. 在庫調整終了の目途は13年半ば前後
  3. III.輸出の本格回復は2013年度以降
    1. 世界景気減速の影響が日本経済に波及
    2. 中国本土の不買運動が輸出の下押し要因に
    3. 2013年度の輸出は1%台半ば程度の安定した成長を予想
  4. IV.下方リスクが顕在化した設備投資
    1. 大幅に落ち込んだ7~9月期の設備投資
    2. 事業用自動車へのエコカー補助金は7~9月期の冒頭で終了
    3. 2012年内の設備投資好転は期待し難い
    4. ただし、設備投資マインドの腰折れは避けられよう
    5. 非製造業の設備投資計画が下方修正されることは稀
    6. 非製造業・中小企業の設備投資は約20年ぶりの高い伸びが見込まれている
    7. 製造業の設備投資は復調が見通しづらい
    8. 2013年1~3月期より、設備投資は緩やかな回復基調に復帰しよう
  5. V.エコカー補助金制度の影響が大きい個人消費
    1. 実質個人消費は2四半期連続の減少
    2. エコカー補助金終了で実質個人消費は前期比0.2%ポイント押し下げ
    3. 7~9月期は衣料関連支出の弱さも目立った
    4. 年末まで個人消費は腰が重い状態が継続しよう
    5. 2013年初以降、再び個人消費は回復へ
  6. VI.雇用情勢の悪化は13年半ばまで続く見通し
    1. 堅調な雇用情勢に変化が見えた7~9月期
    2. 雇用情勢の悪化を受けて総賃金も下振れる可能性
    3. 所定内給与押し下げの主因はパート化の促進
    4. 高年齢者の雇用延長が日本の労働力人口を支える
  7. VII.コアCPIは2013年半ばまで前年比マイナスに陥る可能性
    1. 石油製品物価の下落によりコアCPIは低下
    2. 2013年半ばの消費増税決断にコアCPIの動向が影響を与える可能性も
  8. VIII.正副総裁交代を契機に高まる積極緩和姿勢への転換期待
    1. 日銀は資産買入等基金を10兆円程度増額することを決定
    2. 貸出支援基金と合わせ今後1年程度の聞に50兆円超の資金供給
    3. 13年1月の決定会合で物価目標政策が導入される可能性高まる
    4. 正副総裁の交代が政策スタンスの転換に繋がるとの期待が台頭
  9. IX.注目される今後の政策運営
    1. 特例公債法案が成立
    2. 次の焦点は補正予算策定のタイミング
    3. 大型補正予算の可能性

要約と結論

  1. 2012年7~9月期の日本の実質GDP成長率(2次速報)は前期比年率-3.5%と、2四半期連続のマイナス成長を記録した。日本経済は、既に4~6月期には景気後退局面に陥っているとみられ、10~12月期も同-3.2%前後のマイナス成長となると予想している。
  2. 景気悪化の主因は、海外景気の低迷に伴う輸出の腰折れである。欧州景気の長期低迷、米国景気の減速を受けてアジア域内の貿易取引が縮小、日本にも波及した形である。輸出環境の悪化により製造業在庫はリーマンショック直後と同程度まで積み上がった上、設備投資、雇用が抑制された。同時期に復興関連消費の一巡が重なったことが、景気後退を招いたと言える。
  3. ただし、景気後退が長期化するリスクは限定的である。2013年前半には中国景気が再加速に転じ、年央以降は、「財政の崖」を乗り越え米国景気も回復基調を鮮明化させよう。海外景気の回復に円安による恩恵もあり、日本経済は輸出主導の回復局面へと移行すると予想する。結果、2013年1~3月期にも実質GDPはプラス成長へと転じ、消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあり、年末にかけて回復基調は鮮明化しよう。景気の一時的な低迷からデフレ解消ペースの鈍化は避けられず、コアインフレ率(生鮮食品の除く総合指数)がプラスに転じるのは、来年半ば以降となる見通しである。
  4. 金融・財政政策に対する市場の関心は、新政権の政策に移っている。日本銀行では2013年3月に副総裁、4月には総裁がそれぞれ任期を終える。安倍自民党総裁は、より積極的な金融緩和を求め、日銀法の改正も辞さない構えを見せていることから、金融市場では日銀の政策スタンスがより緩和志向へ転換するとの期待が高い。財政政策では、野田内閣は10月、11月に予備費を使用して総額1.2兆円規模(国費ベース)の緊急経済対策の策定を決定した。2013年10月には消費税率引き上げの有無が最終的に決定される予定である。そのタイミングでは、4~6月期までの実質GDP統計が入手可能であることから、少なくとも2013年開催予定の通常国会では大型補正予算が組まれるとの期待が台頭している。我々は、今回の見通しでは予算規模よりも早期成立を優先する結果、真水ベースで1.2兆円規模の景気対策を想定している。