任意適用が広がる国際会計基準(IFRS)

論文2013年夏号

野村證券金融経済研究所 経済調査部 野村 嘉浩

目次

  1. I.はじめに
  2. II.日本におけるIFRSの状況
  3. III.日本におけるIFRSの捉えられ方
  4. IV.今後のIFRSの開発動向
  5. V.IFRS適用に関する制度整備
  6. VI.おわりに

要約と結論

  1. 日本で国際会計基準(IFRS)の任意適用制度が始まった2010年3月期から4年が過ぎ、IFRS適応企業数も少しずつ拡大してきた。2013年5月末日現在、四半期決算のみの適用や、米国上場対応に伴う適用、IFRS適用予定を公表した企業(野村證券調べ)を含み、適用社数は22社に達し、その時価総額は32.6兆円(2013年3月末時点、以下同様)、日本企業全体の8.5%を占めるまでに至る。
  2. IFRS適用のメリッ卜は、投資家の視点からグローバルな企業比較可能性の向上が指摘されるのみならず、企業の視点からも、海外子会社との会計基準統一による実務負担の軽減、海外提携企業や海外同業他社との企業比較の容易性につき、経営戦略上、評価する声がある。また直近では、海外上場がIFRS適用の動機とされた事例もある。
  3. 一方で、IFRSに対する日本の関係者の一般的な懸念については、国際会計基準審議会(IASB)が2011年7月に公表した「アジェンダ・コンサルテーション2011」への意見発信の中に色濃く出ており、包括利益と純利益の取り扱い、公正価値の適用範囲、開発費の資産計上、のれんの非償却などの項目について、IFRSの個別基準を受け入れることが困難との判断が示されている。これらの項目については、日本の会計基準開発主体である企業会計基準委員会(ASBJ)を中核に、IASBに対する積極的な意見発信が展開されよう。また、今後のIFRSの新基準開発動向をみると、金融商品、リース、保険契約などの分野の議論が進捗している。意見発信のテーマには、これらのプロジェク卜も含まれることとなろう。
  4. また、IFRS任意適用企業の拡大に向けたさまざまな対応が、検討されている。各企業の任意適用に対する努力もさることながら、金融庁企業会計審議会では、任意適用要件の緩和や、IFRSへの移行への橋渡し的な基準として、「エンドースメン卜IFRS」の創設を検討するなど、いくつかの任意適用支援体制を整えつつある。こうした制度的な動きも相まって、数年内にIFRS任意適用企業が数百社レベルにまで拡大していくことが予想される。