オーストラリアのスーパーアニュエーション
-1.6兆豪ドルの私的年金の示唆-
論文2013年秋号
野村資本市場研究所 野村 亜紀子
目次
- I.はじめに
- II.オーストラリアの年金制度
- 最低保障の公的年金と自助努力のスーパーアニュエーション
- 個人の選択権が重視された仕組み
- 存在感の大きいデフォルトファンド
- 金融当局による規制
- III.スーパーアニュエーション制度の確立と変遷
- 構造改革の時代
- 年金基本政策の宣言と強制拠出の導入
- 個人の選択権拡充と監督の強化
- デフォルトファンド改革
- 公務員年金改革としてのスーパーアニュエーション
- IV.スーパーアニュエーションがもたらした資産運用ビジネスの発展
- 巨額の国内資産形成
- 個人向け投資サービスの発展
- ファイナンシャル・アドバイスの浸透
- 政府の金融リテラシ一戦略策定
- 輸出産業としての資産運用業の可能性
- V.我が国への示唆
- 求められる私的年金政策の確立
- 確定拠出年金向け投資サービスの高度化
- さらなるイノベーションの予兆
要約と結論
- オーストラリアのスーパーアニュエーションは、強制加入の私的年金である。公的年金は所得・資産審査を伴う最低保障の制度であり、国民が充実した老後を過ごすにはスーパーアニュエーションを通じた自助努力の資産形成が必要となる。
- オーストラリアでは、国をあげての構造改革が断行された1980~90年代、労働組合と労働党政権が「高齢化時代には貯蓄増こそが優れた所得保障」という認識を伴う年金基本政策の下で、スーパーアニュエーション制度を確立した。以後、政権交代を経ても一貫して拡充策が推進されている。現在はほとんどが確定拠出型年金で、加入者は投資対象のみならず加入基金も選択できる。ただ、実際には資産の4割強が、加入者が選択しない場合の投資先であるデフォルトファンド(バランス型ファンドが中心的)で運用されており、2012年にはその重要性に鑑みて同ファンドの要件を規定し金融当局が承認する制度改革が行われた。
- スーパーアニュエーションの残高は2013年6月時点で1.6兆豪ドル(約150兆円)と、オーストラリアのGDPに匹敵する規模に達した。資産運用業界の7割超、個人金融資産の45%を占める。これを巡り4大銀行をはじめとする金融サービス業者聞の競争が展開され、同国の金融ビジネスの発展を促してきた。電話や対面のファイナンシャル・アドバイスを含む加入者向けサービスが発達しており、成人の2~4割がアドバイスを利用している。
- 少子高齢化の進む我が国では、年金基本政策の樹立と、確定拠出年金の拠出限度額引き上げを含む私的年金拡充策が急がれる。また、確定拠出年金の資産の6割が元本確保型商品に入れられ、長期分散投資が実践されていない現状を改善するべく、投資アドバイスの導入やデフォル卜商品改革の実施が求められる。