日本の成長戦略と企業統治

論文2013年秋号

野村證券金融経済研究所 経済調査部 西山 賢吾

目次

  1. I.はじめに
  2. II.成長戦略とコーポレートガバナンス
    1. 成長戦略とコーポレートガバナンス強化
    2. 「女性の活躍推進」、「公的・準公的資金の運用等の在り方」は別途議論
  3. III.社外取締役を巡る議論と会社法の見直し
    1. 会社法見直し法案は「社外取締役の必須化」を求めない形で提出へ
    2. 「独立役員」制度とその問題点
    3. 上場規則で「独立性の高い」社外取締役の選任が必須化されるかに注目
  4. IV.「日本版スチュワードシップ・コード」の創設
    1. 「短期主義」の弊害と「ケイレビュー」
    2. 「日本版スチュワードシップ・コード」創設の検討
    3. 「機関投資家」概念とその責任拡大が論点
  5. V.経営改善、事業再編を促すための施策と「持ち合い解消」の促進議論
  6. VI.資本効率を選定基準とした株価指数の開発
  7. VII.おわりに

要約と結論

  1. 2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」では、日本の産業、企業の「新陳代謝の促進」という文脈の中で、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化が成長戦略のー施策と位置付けられたことが大きな特徴といえる。
  2. 事業の再編等により過当競争を解消するとともに、革新的な技術開発への投資促進などで収益力や資本効率を高め、日本企業の国際競争力を回復強化することが「産業の新陳代謝」と意味するところと考えられる。コーポレートガバナンス強化が成長戦略のー施策とされたのは、このような動きを促進する上では、株式市場など、企業の「外からの規律付け」が重要との認識があると考えられる。
  3. 「外からの規律付け」が過度に進むと、企業や投資家の行動が短期的視点に基づくものに偏り、健全な活動を阻害する「短期主義」に陥るとの批判もある。成長戦略の中で検討されている「日本版スチュワードシップ・コード」の創設は、「短期主義」に陥ることなく、企業との長期的、建設的な関係を構築するため、投資家としての責任や義務の明確化を目的に検討される。
  4. 一方、資本効率性(ROE:自己資本純利益率)やコーポレートガバナンス等を選定基準とする、新しい株価指数の開発が東京証券取引所などで進められている。コーポレートガバナンスの強化に並行し、これら指数の開発、普及が進めば、多くの日本企業が収益力や資本効率の改善に取り組むであろう。その結果、成長戦略の意図する産業の新陳代謝が進み、日本企業のROEも、国際的にも遜色のない10%台に定着することが期待されるなど、日本の企業、株式市場の投資魅力を高めていくと考える。