2013~15年度の日本経済見通し
-デフレ脱却に向けての正念場に-
論文2014年新春号
野村證券金融経済研究所経済調査部 木下 智夫、尾畑 秀一、野木森 稔、水門 善之、岡崎 康平
目次
- I.消費増税前・後に予想される景気の状況
- 消費増税直前までは景気が上向くと予想
- 消費増税直後の4~6月期は一旦マイナス成長に陥るが、その後は回復軌道を辿ると予想
- II.労働環境の改善が示唆する賃金上昇の可能性
- 足元の雇用環境は比較的早いペースで改善
- 雇用環境に先行する労働分配率
- 一人当たり賃金への影響が大きい非製造業の所定内給与の動向
- 非製造業の一人当たり所定内給与の鍵を握るパートタイム労働者比率
- 労働分配率の低下は非製造業の一般労働者数の増加を示唆
- 労働需給面からもパートタイム比率の上昇基調鈍化が見込まれる
- 春闘のベースアップ妥結が所定内給与の押し上げに寄与する可能性も
- III.デフレ脱却に向けた諸条件は徐々に揃いつつある
- 完全失業率と総賃金の関係
- 完全失業率とインフレ率の関係
- エネルギ一価格変化に対する原油価格と為替レートの寄与
- 今後は消費増税の影響がインフレ率の変化に大きく寄与
- IV.成長戦略は法制化の段階へ
- V.金融緩和の効果と追加緩和余地の検証
- 「量的・質的金融緩和」政策の効果と限界
- 想定される追加緩和のタイミングと緩和余地
要約と結論
- 2013年7~9月期のGDP(国内総生産)第2次速報値の発表を受け、2013~15年度経済見通しを改定した。13、14年度の実質GDP成長率予測を、前回見通し改定時(13年10月1日)からそれぞれ0.4%ポイン卜、0.1%ポイン卜下方修正し、2.5%、1.8%とした。15年度についても、前回見通しよりも0.2%ポイン卜引き下げて1.9%とした。13年度についての下方修正は、過去数四半期にわたって民間消費の伸びが下方修正されたことや、米国景気の減速に伴う影響を反映させたことによる。14年度の成長率を引き下げたのは、(1)消費増税の景気への悪影響をこれまでよりも若干強く織り込んだ、(2)外部環境に関する前提を若干引き下げた、(3)今後執行される公共投資額を従来よりも低目に見積もった、ことによる。
- もっとも、2014~15年度を通して、日本経済が輸出と設備投資に牽引されて比較的速いペースで成長するとの見方は堅持する。まず、輸出については、14年以降、米国景気が本格的な拡大局面に入ることにより、米国・アジア向けの輸出が本格的に回復すると見込む。また、14年末に1ドル=110円までの円安進行を想定しており、日本の輸出競争力が高まる効果も期待できる。民間設備投資についても、以下3つの要因から伸び率が高まると予想する。(1)輸出の堅調が製造業の稼働率を高め、さらに更新投資需要をもたらす。(2)非製造業において11年以降の投資不足が今後ペントアップ需要をもたらす。(3)卸売・小売業や運輸業において、eコマースの拡大や店舗増設の動きが拡大し、IT(情報技術)や倉庫関連の需要が増加する。消費増税直後の14年4~6月期は増税の悪影響が強く顕在化するかたちでのマイナス成長は免れないものの、財政政策パッケージの効果が景気を支える重要な役割を果たそう。
- 10月のコアCPI(消費者物価)上昇率(生鮮食品を除く)が前年同月比0.9%に達するなどインフレ率が高まってきた。ただし、インフレ率の上昇には円安要因が大きく寄与しており、持続的にインフレ率をプラスの領域で維持するためには、需要サイドからのインフレ圧力を高めることが必要となる。この点では、成長戦略の着実な実施による成長力の強化が不可欠であるが、同時に、名目賃金の上昇も重要であろう。後者については、労働市場のタイト化により、15年度末には一人当たり平均賃金増加率が1%程度に上昇する可能性が高いとみている。こうして日本経済が持続的にデフレから脱却できる環境が徐々に整っていこう。