日本経済中期見通し2015
-それでも日本は成長する-
論文2015年新春号
野村證券経済調査部 木下 智夫、桑原 真樹、髙橋 泰洋、野木森 稔、水門 善之、須田 吉貴、大越 龍文
目次
- I.はじめに
- II.第一の矢がもたらしたもの
- 円安が生産拠点の選択に与える影響
- 業種別の内外利益均衡為替レート
- 貿易収支、為替レート、原油価格
- III.労働力不足がもたらす問題
- 労働力不足が深刻化
- 労働力不足の帰結
- IV.イノベーション主導の経済成長へ
- 米国の経験:労働力不足が促すイノベーション
- 日本の成長ストーリー
- V.見えてきた人口動態の転換
- 出生率のトレンドに大きな変化
- 出生率転換をもたらす新たな「家族」の形
- 給付費の支給がもたらす出生率の上昇
- VI.「成長戦略」と地方創生の糸口
- 成長戦略の位置づけと評価
- 製造業の国内生産拡大の取り込みが地方創生の糸口に
- VII.中期経済見通し
- 海外経済についての前提
- 原油価格についての前提
- 為替レートについての前提
- 日本経済見通し
- 金融政策の見通し
- 財政の見通し
- VIII.おわりに
要約と結論
- 4月の消費増税後の2四半期連続マイナス成長など、2014年は日本経済にとって波乱の年であった。極論すれば、アベノミクスがもたらしたのは一時的な円安のみであり、人口が減少していく日本の成長には期待すべきではないとの声も聞かれる。しかし、我々はその見方にはくみしない。
- 為替レートの水準は、国内外の生産拠点の利益率格差に影響を与える。極度の円高が進んだリーマンショック以降、日本の製造業が海外へ生産拠点を移す動きが進んだが、為替レートの水準が円安にシフトしたことでその動きは一服しており、今後は世界需要の拡大とともに国内設備投資と輸出も増加していくと見られる。仮に円安の「進行」が一時的であったとしても、為替レートの「水準」が変化したことは、日本経済に恒久的な影響をもたらすと考えられる。
- むしろ、日本が抱える問題は労働力不足だ。15-64歳人口は1995年をピークに減少を続けており、多少の需要拡大で労働需給が逼迫してしまう。低成長、経常赤字、高インフレ、高金利、通貨安の状態に陥るのを避けるためにはイノベーションの促進が必要となる。イノベーションが進むか否かの判断は容易ではないが、19世紀米国では、労働力不足が省力化目的の機械化投資を促した。それが米国式生産システムの確立につながり、ひいては米国経済を世界最大の工業国に押し上げた。日本においても、労働力不足に対応するための省力化投資の動きがすでに出ている。人口減少が進む日本におけるイノベーションの可能性を、過小評価すべきではないと判断する。
- 労働力不足がイノベーションを促すとはいえ、長期的には女性の労働参加と矛盾しない形で少子化に歯止めをかけることが重要であるが、日本の出生率は2005年を底に上昇に転じている。「近居」という新たな家族形態の広がりがその背景にあるとすれば、出生率のトレンドは大きな転換点を迎えた可能性があり、政策的な後押しがあればさらなる出生率の改善が可能であろう。
- 政府の成長戦略は、上記のような変化を後押しするメニューを多く含んでいる。今後より実効性のある施策が求められるのは、地方創生、財政再建などであり、日本が長期的に取り組むべき分野であろう。