米国における投資一任サービスの発展と課題
論文2016年新春号
野村資本市場研究所 岡田 功太
目次
- I.市場規模4兆ドルに迫るマネージド・アカウント
- II.リテール金融を巡る制度及び経営の歴史的背景
- FAの評価・報酬体系に関する議論
- MDAの開発とオープン・アーキテクチャー化
- ITバブル崩壊後の営業部門のリストラ
- 2008年以降の規制強化による収益源の変化
- III.イノベーションによる運用手法の変化
- 金融危機を踏まえた最適ポートフォリオの構築
- リキッド・オルタナティブによる分散投資
- ETF活用の進展
- IV.家計金融資産一括管理のためのサービス開発
- 税制優遇効果を最大化するユニファイド・マネージド・アカウント
- ユニファイド・マネージド・アカウントを巡る各金融機関の動向
- ゴール・ベースド・ウェルス・マネジメントとメリルリンチ・ワン
- V.サービスの多様化と受託者責任の議論の喚起
- メリルリンチ・ルールの無効化とレップ・アズ・アドバイザーの登場
- 金融危機後に注目されるレップ・アズ・ポートフォリオ・マネージャー
- 受託者責任の範囲拡大の影響
- VI.投資アドバイスの変化に伴うフィー徴収方法の多様化
- 低下する残高フィーの水準
- 多様化する残高フィーの取得方法
- 顧客満足度向上のための試み
- VII.マネージド・アカウントを巡る動向の総括
要約と結論
- 米国のマネージド・アカウント(MA)の運用資産残高は3.9兆ドルに達し、過去5年間で年率約20%の成長を遂げている(2014年末)。MAとはSMAやファンドラップの総称であり、金融機関の営業担当者(FA)と顧客が投資一任契約を締結し、顧客のポートフォリオ構築を請け負うサービスを指す。
- 米国のMAは、約40年間の歴史の中で、顧客が資産運用を行う上で最適なサービスとは、どのようなものかという観点から、米当局、ワイヤーハウス、資産運用会社等の各関係者の間で議論が成熟し、切磋琢磨した結果として発展してきたサービスである。米国MAの規模は日本の投資一任口座の約130倍に匹敵するが、ある1つの要因によって市場規模が拡大したわけではなく、リテール金融業界を取り巻く環境変化が複層的に関連している。
- 具体的には、第一に、規制改革の潮流を受け、リテール金融業界の付加価値は単なる金融商品の販売から中長期的なアドバイス及びコンサルティングの提供に変化した。第二に、ITバブル等の過去の市場の急変動を受け、リテール金融ビジネスは収益の安定化とFAの生産性重視へシフトした。第三に、2008年の金融危機を受け、最適なアセット・アロケーションの重要性が投資家やFAから意識され、更には口座レベルではなく、家計レベルの最適化にサービス範囲が拡大した。
- そのような一連のリテール金融業界を取り巻く変化がMAの拡大と多様化をもたらした。顧客にとっての選択肢の拡大及び満足度向上を目指して、たゆまぬ工夫を続けている米国MA業界の動向は日本にとっても示唆に富むのではないだろうか。