欧州におけるフィンテックの興隆
論文2016年夏号
野村資本市場研究所 神山 哲也
目次
- I.フィンテックとは
- 流行語となった「フィンテック」
- フィンテックの2側面:ディスラプターと金融業者支援
- 欧州におけるフィンテック台頭の背景
- II.官民挙げてフィンテック育成に取組む英国
- 世界のフィンテック市場における英国の位置づけ
- 英国フィンテック市場の概況
- 英国政府によるフィンテック育成策
- 民間のフィンテック向けインフラ整備
- 大手金融業者によるフィンテックの育成・取込み
- III.銀行のフィンテックへの門戸開放に繋がるEUのオープンAPI
- オープンAPIの可能性
- EU規制で義務付けられるオープンAPI
- 欧銀によるオープンAPI先行事例
- IV.日本への示唆
要約と結論
- フィンテックとは、FinanceとTechnologyを組み合わせた造語であるが、近年の流行り言葉としては、金融ITベンチャーを中心とした金融IT業者を指す。破壊者を意味するディスラプターと表現されるが、既存金融業者を支援するフィンテックも多い。人口動態とネット人口の増加、既存金融業者におけるイノベーションの限界などを背景に、欧州で近年、急速に台頭している。
- 拡大する世界のフィンテック市場でも、国際的なフィンテック・センターとして台頭しているのが英国・ロンドンである。その背景には、官民を挙げたフィンテック育成の取組みが挙げられる。政策としては、大手行が融資を断った中小企業にクラウドファンディングなどの代替的な調達手段を紹介するプログラムや、ピア・ツー・ピア(P2P)レンディングのISA適格化などがある。他方、民間側でも、フィンテックのインキュベーター・スペースとしてLevel39が開設されたり、業界団体としてイノベート・ファイナンスが設立されたりした。大手金融業者も、アクセラレータ・プログラムの活用等を通じて、フィンテックの取り込みに積極的な姿勢を示している。
- 今後、大陸欧州でもフィンテックが本格的に拡大する可能性がある。そのきっかけになり得るのが、銀行にオープンAPIを求めるEUの第2次決済サービス指令である。同指令により、銀行はフィンテックなどの外部業者に対し、自行の決済システム及び顧客口座情報へのアクセスを開放することが求められる。これにより、各金融業態にある資金を一括管理できる口座アグリゲーション・サービスなどが本格拡大することが見込まれている。同指令を先取りし、既にオープンAPIを採用して外部業者の商品・サービスを顧客に提供する大手行も出てきている。
- 日本で今後、ディスラプティブなフィンテック企業が出現する土壌を作り、消費者の選択肢を広げていくには、欧州の政策的取り組みが参考になろう。英国のフィンテックに係るエコシステムの創出は、東京におけるフィンテックと金融業者の地理的な近さを鑑みれば現実的な施策と言える。また、EUのオープンAPIのような金融業者によるフィンテック企業への門戸開放を求める仕組みは、日本の家計金融資産が銀行預金に偏重する中、より広範な資産運用の機会を消費者に提供するための切り札になる可能性を秘めている。