国内ESG投資の「過去」「現在」「未来」

論文2016年秋号

野村證券クオンツ・リサーチ部 山本 雅子

目次

  1. I.はじめに
  2. II.ESG投資とは
    1. 定義と成り立ち
    2. 代表的な投資手法
  3. III.国内ESG投資の「過去」
    1. SRIファンド
    2. 長い「機関投資家不在」の時代
    3. 企業の社会的責任(CSR)とESG
  4. IV.国内ESG投資の「現在」
    1. 日本再興とESG~企業価値との出会い
    2. GPIFのPRI署名とその影響
  5. V.国内ESG投資の「未来」
    1. 気候変動問題
    2. インデックス投資の可能性と課題
  6. VI.おわりに

要約と結論

  1. 投資判断にESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を考慮する、ESG投資は、2006年に国連責任投資原則(PRI)が提唱し、グローバルでは年金基金などの大手機関投資家が採用するようになったが、日本では長い間、機関投資家の多くがESG投資に消極的だった。その背景には、ESG投資を促す外的要因(受益者や世論の圧力、ESG投資を義務付ける法制度や政府の要請など)が日本では希薄だったことや、運用成績に対する効果が明確でないことがあった。
  2. こうした国内機関投資家のESGに対する姿勢に変化が見られるようになったのは2014年からだが、その遠因は数年前から発生していた日本企業にとっての逆風的環境により、日本企業の価値の回復・向上が急務になったことにある。第二次安倍内閣による日本再興戦略の一連の施策の中で、ESGの概念が、企業価値の持続的創造・向上を可能とする要素のひとつ、というように、企業価値と結びついて理解される傾向が出てきた。
  3. 世界最大級の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もESG投資について前向きに検討を始めた。日本版スチュワードシップ・コードの受入れ表明や、スチュワードシップ責任とESG投資についての調査研究の委託などを経て、2015年9月にPRIの署名機関となった。この影響で運用機関など他の機関投資家の間に、ESGを考慮する動きが広がった。
  4. 未来に残されているESGの課題には、気候変動やESGインデックスの問題がある。COP21で採択されたパリ協定の発効が近づいており、エネルギー産業をはじめとしたさまざまなセクターで、気候変動問題への対処が重要問題となっている。インデックスを用いたESG投資は、日本は勿論、欧米でも今のところ限定的にしか行われておらず、今後の課題である。
  5. 国内機関投資家のESG投資に対する姿勢が変遷していく過程で、ESGが企業価値と結びつけて考えられるようになったことが、普及に向けた転機になったと見られる。継続的な企業価値の創造プロセスに影響を与える要素としてESGを位置づけ、考慮することが、機関投資家にとって望ましいESG投資として受け入れられつつあるのではないだろうか。