人工知能とビッグデータの金融業への活用

論文2017年新春号

野村資本市場研究所 関 雄太、佐藤 広大

目次

  1. I.人工知能技術で起きたブレイクスルー=機械学習とディープラーニング
  2. II.ビッグデータとの結合を通じた金融業におけるAI活用
  3. III.金融サービス業の本質的変化とAI・ビッグデータの活用
    1. AIの活用方向(1):顧客をよく知ることや営業員の支援
    2. AIの活用方向(2):情報取扱系の業務やミドル・バック処理の効率化
    3. AIの活用方向(3):金融市場の動きの予測
  4. IV.資産運用業におけるAI・ビッグデータの活用
    1. 資産運用とAI
    2. AI活用の具体例
    3. AI活用の課題
  5. V.AIやビッグデータが切り拓く金融業の未来
    1. 人間や企業の対応
    2. おわりに

要約と結論

  1. 近年、人工知能(AI)の分野で、マシンラーニング(機械学習)あるいはその中でもディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法のもたらす革新が、大きな話題となっている。この革新を受けて、従来は実現までに何年、何十年もかかると予想されてきた高度な判断や推論といった知的活動を部分的にAIが担うことが現実性を帯びてきた。一方で、金融業への機械学習型AIの活用はまだ端緒についたばかりだが、活用可能性は相当大きなものになると考えられる。
  2. 金融業で扱うプロダクトは物理的な形のないものであり、データが最も重要な付加価値の源泉とも言える。消費者や顧客にまつわる大量の非構造化データなど、利用可能なデータの範囲と量が飛躍的に拡大しているため、金融機関が機械学習型AIを活用する意義が生まれてくる。すなわち、AIとビッグデータ(大規模なデータの集合体)が組み合わさることによって、包括的で高精度な解析が可能となり、金融機関にとって真に価値のある情報処理ができると言える。
  3. 金融サービス業に焦点を当てると、AIやビッグデータを活用することで、(1)パーソナライズ化、(2)自動化、(3)予測+αといった方向性で発展が進むと考えられる。これにより従来以上に顧客ニーズに即したサービスを提供できるようになり、結果として、金融サービス業の本質が変化していくことが予想される。
  4. 上述の3つの方向性に関して、AIの金融サービス業への適用事例としては「顧客をよく知ることや営業員の支援」「情報取扱系の業務やミドル・バック処理の効率化」「金融市場の動きの予測」といった分野が挙げられ、海外を中心として金融機関、IT企業やスタートアップ企業によるさまざまな取り組みが始まっている。
  5. 資産運用業でも、クオンツ運用を行うヘッジファンドを中心に運用パフォーマンスを向上させることを主目的として、AIやビッグデータ分析の活用への取り組みが見られる。ただしオーバーフィッティング等の課題は存在するため、その評価はまだ定まっていないものと見られる。
  6. 日本国内では少子高齢化や労働生産性の低さは解決すべき課題として叫ばれているが、AIやビッグデータ分析を活用した自動化や付加価値の向上に活路を見いだせる可能性がある。日本の金融機関も顧客から選択され生き残るためには技術革新をプロアクティブに採り入れて付加価値を高める他なく、AIとビッグデータ分析の革新は、今後、金融業の細部に渡って浸透していくと考えられる。