真の「実質主義」に向かう日本の企業統治改革
論文2017年春号
野村證券エクイティ・リサーチ部 西山 賢吾
目次
- I.はじめに
- II.コーポレートガバナンス改革:次の課題
- コーポレートガバナンス改革の「成果」
- 残存する「課題」
- スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会での議論
- 「アリバイ作り」の形式的対応や「言い訳」に終始しない、「真の実質」への脱却が鍵
- III.17年議決権行使ガイドライン見直しの注目点
- ISSの行使助言方針改定は「相談役、顧問」に焦点
- 経済産業省による相談役、顧問に関するアンケート調査
- 監査等委員会設置会社に対する社外取締役の増員は見送り
- グラスルイスは株式報酬制度と社外役員に関する見直し
- 機関投資家の議決権行使方針見直し
- 関心は「個別開示対応」のガイドライン見直しへ
- IV.おわりに
要約と結論
- 安倍政権下で進められている日本のコーポレートガバナンス(企業統治)改革は社外取締役の増加や株主還元の拡大などで一定の進捗を示している。その一方、足踏みするROE(自己資本純利益率)水準や積み上がる企業の保有現預金などまだ課題が残っている。こうした課題を踏まえ、これから進められるコーポレートガバナンス改革は、「真の実質主義への転換」を企図するものとなる。
- 改訂が議論されているスチュワードシップ・コードにおいて、株主総会上程議案に対する議案の賛否について「個別企業、個別議案」ベースでの開示を原則求めることが議論されている。特に、今回の議決権行使結果の個別開示は利益相反への対応が主眼とされており、実施されることを視野に入れるのであれば、議決権行使基準をより明確、かつ具体的にして、判断に個別企業の状況等をあまり反映しない形にしていくことも考えられる。その場合、これまでにも「形式主義」との批判が聞かれることのある機関投資家の議決権行使基準が、より形式的なものとなってしまう懸念もある。
- 2017年の機関投資家の議決権行使基準の改定については、全体的に見れば限定的なものに留まることが見込まれる。見直しの対象になるとみられるのは、(1)昨年社外取締役の複数選任を基準に盛り込まなかった機関投資家が今年は基準に盛り込むか、(2)社外取締役の独立性について厳格化をしていくか、(3)監査等委員会設置会社において監査等委員以外に社外取締役を求めるなど、ガバナンス面での加重的な要件を求めるか、などである。また、株式対価の報酬制度を導入する企業が増加する中、関連議案の議決権行使基準を整備するかなども検討課題となるであろう。