AI技術の新潮流と投資テーマ銘柄選定への応用
論文2017年春号
野村證券クオンツ・リサーチ部 山中 智、大西 裕子
目次
- I.はじめに
- AIブームの到来と官民の取り組み
- 本論文の構成
- II.AI技術の新潮流
- AI、IoT技術のビジネスへの応用
- AI 技術の特許と応用産業分野
- AI、IoT、FinTech業界での取り組み
- III.AI、ビッグ・データを活用した銘柄選定
- 投資テーマと関連キーワードの選定
- 人工知能を投資テーマとした場合
- 銘柄の選定
- 選定された銘柄の業種構成
- IV.新しいテーマ型指数:野村AIビジネス70
- 指数の概要
- 指数のパフォーマンス
- 指数のスタイル構成
- 指数のファクター構成
- 記事数とリターンの関係
- アクティブ・ファンドとの比較
- V.おわりに
要約と結論
- 2010年代に入って第3次AI(人工知能)ブームが到来しており、政府や官公庁がAI技術の研究開発と産業化を推進している。AIによって視覚認識、聴覚認識や対話能力等の新たな技術が実用化され、ロボット利用や業務の効率化が進んでいる。企業は業界団体を設置し、AIやIoT(モノのインターネット)技術の標準化を進め、ビジネスにおける利用を急速に推し進めている。
- AI技術は、株式投資において投資テーマに関連する銘柄の選定にも応用することができる。例えば、AIのように業種横断的な投資テーマの場合、応用分野が多岐に渡っていることから、定性的な選定にかかる労力は大きく、個人が隠れた優良銘柄を選び出すことは難しい。一方、ニュース、新聞、雑誌等のマスメディアによってAI関連のビジネスは多数報道されており、ビッグ・データとして日々蓄積されている。この記事を検索することで、定量的に銘柄を抽出することができる。この手法が野村AIテーマ銘柄サーチであり、記事検索には投資テーマと、AIを活用して選んだ投資テーマと類似度が高い複数の関連キーワードが用いられる。
- 投資テーマ「人工知能」と類似度が高い関連キーワードは、「ディープ・ラーニング」や「機械学習」、「ビッグ・データ」、「モノのインターネット」等、AIの核となる技術やデータ、応用分野を示す単語が含まれ、選定された銘柄の業種構成は電機・精密、情報通信・サービスその他、自動車・輸送機、機械が中心であった。また投資テーマ「アベノミクス」と類似度が高い関連キーワードは、「景気回復」、「経済の好循環」、「成長戦略」、「デフレ脱却」等、安倍政権の代表的な政策やその結果を示す単語が含まれていた。業種構成は「人工知能」の場合よりも幅広く、小売、電力・ガス、電機・精密・商社・卸売のウェイトが相対的に高かった。
- 野村AIビジネス70は2017年1月に公表が始まった新しいテーマ型株式指数であり、野村AIテーマ銘柄サーチを用いて銘柄選定を行っている。3月にこの指数に連動するETN(上場投資証券)が上場したが、このETNはアクティブ・ファンドよりも管理費用が一般的に低い。AI関連ビジネスを行う企業に対する、透明性が高く低コストでの集中投資が可能となったと言えるだろう。