確定拠出年金の可能性
-iDeCoの登場と運用改善への期待-
論文2017年夏号
野村資本市場研究所 野村 亜紀子
目次
- I.はじめに
- II.iDeCoの可能性
- iDeCoの誕生と意義
- 金融ビジネスとしてのiDeCo
- 企業とiDeCo
- III.DCの運用をめぐる議論
- DCの運用の現状
- 改正DC法に盛り込まれたDC運用改善策
- DC運用専門委員会での議論
- IV.さらなる制度改善事項
- 拠出限度額の見直し
- 中途引出要件の緩和
- 特別法人税の撤廃
- 加入可能年齢の引き上げ
- DC運用をめぐる課題対応
- 「国民皆私的年金」に向けて
- V.おわりに
要約と結論
- 改正確定拠出年金法が2016年5月に成立し、確定拠出年金(DC)は2001年の開始以来の本格的な制度改正が行われた。これにより、iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)は、2017年1月から加入対象者が大幅に拡大し、ほとんど全ての現役世代が利用可能な制度に生まれ変わった。同改正では、また、DCの運用に関する制度の見直しも行われた。
- ユニバーサル化したiDeCoが普及・拡大に向かうことができるのか、新制度が始まった今後数年はまさに正念場とも言える。鍵を握るのは、多様な金融機関がiDeCoビジネスに参画し、中長期的な収益性を確保した上でコミットメントを持続することである。
- DCでは加入者自身が運用商品を選択するが、年金目的の長期運用であるにも関わらず、DC資産の半分以上が預貯金と利率保証型保険商品で占められており、長期分散投資が実践されているとは言い難い状況にある。加入者の運用に対する支援を強化するべく、改正DC法により「指定運用方法」の制度が導入されることとなった。当初の期待ほど踏み込んだ施策とはならなかったが、これを機に多くの企業において改めてDC運用の再確認が行われ、運用改善につながることが期待される。
- 今般の法改正は画期的ではあったが、拠出限度額の引き上げをはじめとする、残された課題解消に向けた努力を続けていく必要がある。中長期的には、私的年金加入率を100%に近づけたいのであれば、自動加入制度を導入し、iDeCoをその受け皿とするといった思い切った施策も検討の余地がある。DCは人口高齢化の進む日本において、多くの国民が老後に向けた資産形成を達成するための、基盤となる可能性を秘めていると言えよう。