投資家層の拡大が課題となるASEAN資本市場
論文2018年新春号
野村資本市場研究所(シンガポール) 北野 陽平
目次
- I.はじめに
- II.着実な成長を遂げてきたASEAN資本市場
- 発展度合いが異なる各国の株式市場
- アジア通貨危機後に発展してきた債券市場
- III.今後の課題となる投資家層の拡大
- 厚みが不十分な資本市場
- 投資家層の拡大に向けた取り組み
- IV.市場のさらなる発展の鍵を握る機関投資家
- 投資信託市場の成長
- 存在感が高まる年金基金
- 多様性と流動性をもたらす海外機関投資家
- V.おわりに
要約と結論
- 東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の資本市場は着実に発展を遂げており、これまで経済成長率を上回るペースで拡大してきた。株式市場では、金融規制当局や証券取引所によるさまざまな制度整備や国営企業の民営化等により、企業の上場が促進されてきた。債券市場については、1997年に発生したアジア通貨危機を教訓として、ASEAN+3(日中韓)の地域金融協力の枠組みの下で2003年に開始されたアジア債券市場育成イニシアティブが現地通貨建て債券市場の成長を下支えしてきた。
- 企業が資本市場から効率的に資金調達を行うためには、規模だけでなく市場に厚みがあることが重要となる。しかし、ASEAN諸国の資本市場では、投資家人口が少ないことに加えて総じて流動性が低いため、十分な厚みがあるとは言い難い状況である。資本市場のさらなる発展には、投資家層の拡大が今後の課題となっている。
- 各国では個人投資家の資本市場への参加を促進するため、投資家教育の推進、金融商品の拡充、市場に関する情報提供の充実、市場インフラの整備等、さまざまな取り組みが進められている。また、ASEAN諸国では、所得水準の向上に伴って中間所得層が拡大しており、投資信託を通じて資本市場への資金フローが増加していくと考えられる。
- 今後、高齢化の進展等を背景として各国において年金制度の整備が進められる中、年金基金の機関投資家としての存在感が高まると見られる。その結果、資本市場への長期資金の供給が促進されることで、ASEAN諸国の優先課題であるインフラ整備に必要とされる資金調達が円滑化される可能性がある。さらに、各国の信用格付けの向上や上場企業のコーポレート・ガバナンスの改善等を受けて、海外機関投資家によるASEAN資本市場への投資拡大も期待される。