米長期金利上昇下の日米株式市場

編集者の目2018年5月24日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

18年5月中旬以降、米10年国債利回りが節目の3%を越え、3%前後で推移している。その背景には、(1)4~6月に入り、減税、歳出拡大の効果で米国経済のモメンタムが強くなりつつあること、(2)トランプ政権のイラン核合意離脱、経済制裁再開により、イラン産原油の減産、原油需給のタイト化が意識され、原油価格が上昇してきていること等がある。ただ、財界観測WEB版「米国インフレリスクの検証-景気拡大は高インフレをもたらすか」(雨宮愛知、2018年5月21日)にあるように、失業率と賃金の関係を示すフィリップス曲線の傾きが平坦化している、また、大都市圏での賃貸住宅の供給過剰や政府による医療費抑制策が家賃や医療サービス価格の上昇を抑える等から米国の物価上昇は穏やかで、インフレ懸念の高まりからFRB(米連邦制度理事会)の金融政策が後追い的になり、長期金利が急上昇するリスクは限定的だろう。もちろん、野村の米国エコノミストチームが見るように、7~9月、10~12月に米10年国債利回りが3.25%程度まで上昇する可能性は見ておいた方が良さそうだ。

それでは緩やかとは言え、米長期金利の上昇見通しの下で、日米の株式市場は18年後半どのように推移するとみておいたら良いのか。再び、1~3月に起きたような米国株、日本株の急落は起きないのか。結論を先取りして言えば、内外政治や地政学リスクの影響を時々受けるものの、米物価上昇が穏やかな中では緩やかな回復・上昇が期待できると見ている。

まず米国株についてどう見るか。重要な点の第1は、米国の10年国債利回りが3%強まで上昇するのに伴うバリュエーションの調整は終了したとみられることだ。1年後予想利益に基づくS&P500指数のPER(株価収益率)は17年末の18倍台から18年4月には16倍台まで下がり概ね適正化した。トランプ政権が始まってから今日までのイールドスプレッド(株式の益利回りと債券利回りの差)は平均で2.8%ポイントであり、仮に、10年国債利回りが3.25%まで上昇しても、この平均イールドスプレッドに基づけば、益利回りは6.05%、PERは16.5倍と計算される。重要な点の第2は、米国経済及び米国企業の収益見通しが良好であることだろう。減税、歳出拡大により、米国の実質GDP成長率は、18年2.9%、19年2.6%と好調が見込まれる上、トムソン・ロイターの5月18日付け集計によると、S&P500指数のEPS(一株当たり利益)は法人減税効果もあり、18年に前年比22%増、19年に同10%増が予想される。18年末には、19年の利益予想を織り込む形で、米国株は上昇している公算がある。

次いで日本株はどうか。米国株の上昇に加え、日本企業が増益軌道を歩めるかがカギを握るが、その可能性は高いと見られる。第1に、世界経済の成長に伴い輸出の拡大傾向が続くだろう。特に、第4次産業革命の後押しもあり、半導体・電子部品、半導体製造装置等の輸出拡大が見込まれる。第2に、設備投資の拡大が続こう。インターネット通販の成長に伴い流通倉庫等の投資が強い上、人手不足による省力化投資も強い。日本銀行の企業短期経済観測調査でもこの点は確認されている。第3に、事業の選択と集中、海外企業のM&A、コーポレートガバナンスの強化等で日本企業の稼ぐ力が増している。アナリストによる主要企業(ラッセル野村大型株ユニバース)の連結経常利益の予想は、18年度が8%増益(17年度推定15%増益)、19年度も増益が続く予想である。為替前提は1ドル=106円であり、1ドル=110円前後の為替レートが続くと、上方修正の可能性もある。仮に、4円円安となると、2%ほど増益率が高くなろう。18年末には19年度の利益予想を織り込む形で、日経平均株価は24,000~25,000円に達する公算が高い。

もちろん、原油価格が中東情勢の悪化から100ドル/バレルまで急上昇するとか、欧州中央銀行や日本銀行が現行の金融緩和政策を前倒しで大幅に修正するとか、米中貿易戦争が回避できず世界経済が下振れする等のリスクシナリオが生起すると上記見通しの達成は厳しくなろうが、その確率は小さいとみている。

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