2018~19年度の経済見通し
-一時的弱含みを超えて-

論文2018年5月24日

野村證券経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、水門 善之、棚橋 研悟、宮入 祐輔

目次

  1. I.日本経済:一時的弱含みを超えて
    1. 緩やかな景気拡大は持続するが拡大の勢いは低下方向へ
    2. グローバル景気減速は一服、4-6月期輸出は持ち直しへ
    3. 鉱工業生産は4-6月期に持ち直しの動き
    4. 設備投資はGDPベースで減少したが企業の投資意欲は強い
    5. 雇用環境は良好だが賃金は明確に加速せず
    6. 1-3月期の個人消費減少は一時的だが先行き大幅増は見込まず
    7. 貸家ブーム一服で住宅投資は減少継続
    8. 景気対策は公共投資中心へ
    9. 18年度内はエネルギーによるインフレ率下支えを見込む
    10. 金融政策正常化への道のりは遠い
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:景気拡大局面終盤における成長加速
  3. III.ユーロ圏経済:様子見スタンス
  4. IV.英国経済:利上げ予想を先送り(ただし、予想利上げ回数は変わらず)
  5. V.中国経済:米中通商摩擦を巡る交渉が続く

要約と結論

  1. 2018年1-3月期GDP一次速報を踏まえ、2018、19年度の日本経済見通しを改定した。改定後の実質GDP成長率見通しは、17年度(実績)の前年比+1.5%に対し、18年度が同+0.9%、19年度が同+0.8%である。前回、3月19日時点の見通しとの比較では、それぞれ0.3ppt、0.1pptの下方修正である。18年度実質成長率下方修正の主な要因は、9四半期ぶりに前期比マイナス成長となった18年1-3月期実質GDPの下ぶれ及びそれが18年度全体の成長率に及ぼすいわゆる統計上の「ゲタ」の影響である。
  2. 18年1-3月期マイナス成長の主因は、国内における天候不順や海外経済の一時的減速などの一過性の要因であると考えられ、4-6月期以降、成長率はプラス基調を回復するとみている。今後重要となるのは、景気拡大の持続性もさることながら、その「勢い」の強さであろう。野村では、従来、世界経済の牽引役となってきた中国の経済成長が緩やかに減速に向かい、それと連動してグローバル景気の増勢も緩やかに鈍化していく前提から、日本の実質輸出が緩やかに減速していくと予想している。一方、個人消費を中心とする家計需要は、低調な伸びが持続する可能性が高いとみられる。労働需給逼迫傾向の持続にもかかわらず賃金上昇率の加速が依然鈍く、家計の所得環境改善が消費加速には不十分だと考えられるためである。全体として内需の加速によって景気拡大の増勢が維持、加速される公算は小さいと考えられる。
  3. 足元の原油市況高騰を踏まえた原油価格前提の修正を受け、物価見通しを上方修正した。18、19年度のコア消費者物価(生鮮食品を除く全国総合)上昇率は、前年比+1.2%、+0.8%を予想する(前回見通しに比べそれぞれ0.2ppt、0.1ppt上方修正)。しかし、人件費、原燃料価格上昇などを販売価格に転嫁する動きは十分な広がりに欠ける状態が継続するとみられ、2%の物価安定目標からは依然として距離のある状況が続く可能性が高い。
  4. 今回の見通し改定においても、家計需要の基調的な弱さを根拠に、19年10月に予定されている消費増税は再延期されると想定した。一方、物価安定目標未達が続くことを背景に、日本銀行による現行の金融緩和策についても、予測期間内に金利目標の引き上げなどの変更が及ぶ可能性は低いだろう。